母親が妊娠高血圧症候群(HDP)を有すると児の将来の全死亡リスクが26%上昇することが分かった。中国・復旦大学のChen Huang氏らは、デンマークの国民健康登録簿に登録された240万人超を追跡し、母親のHDPと児の死亡の関係を検討。その結果をBMJ(2022年10月19日オンライン版)に発表した。

41年間で10万2,095例がHDPに曝露

 子癇前症、子癇、高血圧などのHDPは妊婦と胎児の疾患と死亡の主な原因の1つで、世界の妊娠の10%に影響を及ぼしている。また、母親のHDPは妊娠と出産における有害な転帰だけでなく、児の将来のメタボリックシンドローム、免疫疾患、神経発達症群や精神疾患などと関連するとされているが、児の出生から若年成人期、それ以降のリスクに関するエビデンスはまだない。Huang氏らは、デンマーク国民健康登録簿に登録された240万人超を追跡し、母親のHDPと児の死亡の関係を検討した。

 1978~2018年にデンマーク国民健康登録簿に登録された児を出生から死亡、移民または2018年12月31日のいずれか早い方まで追跡、HDPへの曝露と死亡の関係を検討した。主要評価項目は全死亡。副次評価項目は児の出生から若年成人期(41歳)までの13の死因による死亡とした。Cox回帰分析を用いて児の性、母親の出産時の年齢、母親の教育程度、妊娠中の喫煙状況、病歴などの交絡因子を調整し、HDPとの関連を評価した。子癇前症の発症時期と重症度、母親の糖尿病歴、母親の教育の程度との関連についても検討した。

 1978~2018年に出生した243万7,718例のうち母親のHDPに曝露したのは10万2,095例(4.2%)、うち6万7,683例(2.8%)が子癇前症、679例(0.3%)が子癇、3万3,733例(1.4%)が高血圧への曝露だった。

子癇と重度子癇前症でリスクがより上昇

 41年間(中央値19.4年、四分位範囲9.7~28.7年)の追跡期間中に、子癇前症の母親から生まれた781例(10万人・年当たり58.94例)、子癇の母親から生まれた17例(同133.73例)、高血圧の母親から生まれた223例(同44.38例)、HDPのない母親から生まれた1万9,119例(同41.99例)が死亡した。

 母親のHDPに曝露した児と曝露しなかった児の累積死亡率の差は0.37%ポイント(95%CI 0.11~0.64%ポイント)、母親のHDPの人口寄与割合は1.09%(同0.77~1.41%)と推計された。

 母親のHDPは児の全死亡リスクを26%上昇させた〔ハザード比(HR)1.26、95%CI 1.18~1.34〕。また、母親の子癇前症、子癇、高血圧は児の死亡リスクを、それぞれ29%(同1.29、1.20~1.38)、188%(同2.88、1.79~4.63)、12%(同1.12、0.98~1.28)上昇させた。また、母親のHDPは児の周産期における死亡リスク(同2.04、1.81~2.30)、心血管疾患による死亡リスク(同1.52、1.08~2.13)、消化器系疾患による死亡リスク(同2.09、1.27~3.43)、内分泌、栄養および代謝疾患による死亡リスク(同1.56、1.08~2.27)を上昇させた。母親の子癇前症の発症時期が早くかつ重度な場合(同6.06、5.35~6.86)、HDPと糖尿病を併発している場合(同1.57、1.16~2.14)、HDPで教育程度が低い場合(同1.49、1.34~1.66)に児の死亡リスクは大きく上昇した。

 以上から、Huang氏は「母親のHDP、特に子癇と重度の子癇前症は児の出生から若年成人期の全死亡および種々の原因による死亡リスクの上昇と関連していた」と結論。「母親のHDPと児の死亡との関連の背景にある生理学的機序を調べるため、さらなる研究を行う必要がある」と付言した。

(大江 円)