脊椎麻酔下での帝王切開は、慢性腰痛のリスクになるのか。トルコ・Recep Tayyip Erdogan UniversityのHizir Kazdal氏らは、脊椎麻酔または全身麻酔で帝王切開術を受けた303例を対象に、術後の腰痛発症の有無を調べる後ろ向き研究を実施した。その結果、麻酔の種類は術後の腰痛の発症と関連しなかったと、Eur Spine J(2022年10月5日オンライン版)に報告した。
妊婦の50%以上で腰痛発症
腰痛は妊婦に多い訴えで、妊婦の50%以上に発生するとされる。脊椎麻酔下での帝王切開が慢性腰痛リスクの上昇につながる可能性が指摘されているが、結論は出ていない。そこでKazdal氏らは、脊椎麻酔または全身麻酔による帝王切開術後の腰痛について検討する後ろ向き研究を実施した。
対象は、2018年1月1日〜20年1月1日に脊椎麻酔または全身麻酔で帝王切開術を受けた女性303例(全身麻酔52例、脊椎麻酔251例)。除外基準は、脊椎麻酔の禁忌、脊椎麻酔に使用されるオピオイドや局所麻酔薬に対するアレルギー、椎間板ヘルニア、すべり症、脊柱管狭窄症などの腰椎の病態、慢性疾患とした。追跡期間中央値は2年だった。脊椎麻酔にはブピバカインを用い、術後の腰痛にはパラセタモールを投与した。
主要評価項目は、帝王切開後新たに発症した6カ月以上持続する腰痛とした。
両群間の差はピアソンのカイ二乗検定を用いて求めた。また、帝王切開分娩後の慢性腰痛に関連する潜在的な危険因子を特定するため、ロジスティック回帰分析を行った。共変量は、母親の年齢、児の体重、麻酔の種類とした。
麻酔の種類は腰痛と関連なく、児の体重と関連
追跡期間中、新たに慢性腰痛を発症したのは303例中57例(18.8%)。内訳は、全身麻酔群が52例中14例(26.9%)、脊椎麻酔群が251例中43例(17.1%)だった。
解析の結果、帝王切開後の慢性腰痛の発症において、全身麻酔群と脊椎麻酔群の間に有意差は認められなかった。
帝王切開術で出生した児の体重は、6カ月後の慢性腰痛と関連する唯一の因子だった(オッズ比1.769、95%CI 1.014~3.087、P<0.05)。一方、妊婦の年齢および麻酔の種類に、慢性腰痛との関連は認められなかった(いずれもP>0.05)。
以上から、Kazdal氏らは「脊椎麻酔で帝王切開術を受けた妊婦と全身麻酔で帝王切開術を受けた妊婦では腰痛の発症に差はなく、脊椎麻酔と腰痛との関連は認められなかった。一方、児の体重と腰痛には関連があることが示唆された」と結論した。
また同氏は、脊椎麻酔で帝王切開術を受けた女性に慢性腰痛が多い理由として、「現在帝王切開術を行う際は、合併症のリスクを低減するため全身麻酔ではなく脊椎麻酔が選択される場合が多い。そのため脊椎麻酔下で帝王切開術を行う症例数が多くなり、必然的に慢性腰痛の症例数も増えたのではないか」と考察。さらに、児の体重と腰痛が関連していたことについては、「胎児の重さが腰痛発症の引き金になり、体重の重い新生児を世話する過程で痛みが強まった可能性がある」との見解を示した。
(今手麻衣)