米・University of Chicago Comer Children's HospitalのTara O. Henderson氏らは、小児がんに対する治療法の変化と将来の乳がん発症リスクとの関連を検証する後ろ向きコホート研究(CCSS)を実施。小児がんサバイバー女性の浸潤性乳がんの発症率は経時的に低下したこと、その要因として胸部放射線療法の施行機会の減少が考えられることなどをJAMA Oncol2022年10月13日オンライン版)に報告した。

45歳時点の累積乳がん発症率は8.1%

 乳がん小児がんサバイバー女性に高頻度で生じる浸潤性の二次悪性腫瘍だが、小児がん治療の進歩に伴う乳がん発症率の変化に関するデータは限られている。

 CCSSの対象は北米31施設において1970~99年に21歳未満で白血病、中枢神経系のがん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、神経芽腫、軟部肉腫、腎腫瘍、骨がんと診断され、5年以上生存した女性患者1万1,550例〔年齢中央値34.2歳(範囲5.6~66.8歳)〕。

 2020年12月5日まで追跡した結果、489例が583件の乳がんを発症、内訳は浸潤性乳がんが427件、非浸潤性乳管がん(DCIS)が156件だった。乳がん診断時の年齢の中央値は40.3歳(範囲19.9~62.1歳)で、原発がんの診断から乳がん発症までの期間の中央値は25.6年(同6.7~47.4年)だった。

 乳がんの累積発症率は、35歳時点で1.6%(95%CI 1.4~1.9%)だったが、45歳時点には8.1%(同7.4~9.0%)へと増加し、55歳時点では18.1%(同16.0~20.1%)に達した。

 年齢、性、暦年をマッチングした一般人口と比べ、小児がんサバイバー女性における乳がんリスクの上昇は6.6倍〔標準化罹患比(SIR)6.6、95%CI 6.1~7.2〕で、過剰絶対リスク(EAR)は1,000人・年当たり1.8(95%CI 1.6~2.0)だった。浸潤性乳がんではそれぞれ6.1(同5.6〜6.7)、1.3(同1.2〜1.4)、DCISでは8.5(同7.3〜10.0)、0.5(同0.4〜0.6)だった。

 10〜20歳で原発がんが診断された女性では、経時的に浸潤性乳がんの累積発症率が低下した(図-左)。年代別に見た40歳時点の浸潤性乳がんの累積発症率は、1970年代が8.4%(同6.7〜10.0%)、80年代が5.4%(同4.2〜6.6%)、90年代が5.3%(同3.5〜7.0%)だった(傾向性のP=0.002)。DCISの累積発症率に年代による差はなかった(図-右)。

図. 年代別の浸潤性乳がんおよびDCISの累積発症率

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JAMA Oncol 2022年10月13日オンライン版)

浸潤性乳がんリスク、治療を考慮すると5年ごとに14%低下

 1970〜90年代の治療法の変化には胸部放射線療法の減少(1970年代34%、80年代22%、90年代17%)および骨盤内放射線療法の減少(同26%、17%、13%)が挙げられる。また、高線量(40Gy超)による治療も減少していた。アンスラサイクリン系薬による化学療法(同30%、51%、64%)は増加していたが、総用量が低いレジメン(1〜249mg/m2)が大部分だった。

 調査時年齢と診断時年齢で補正したモデルでは浸潤性乳がんの発症率は5年ごとに18%低下し〔率比(RR)0.82、95%CI 0.74〜0.90、P<0.001〕、胸部放射線療法を補正すると、低下の割合は11%に減弱した(同0.89、0.81〜0.99、P=0.03)。胸部放射線療法に加えてアンスラサイクリン系薬の用量と骨盤内放射線療法を補正すると発症率低下の割合は14%となった(同0.86、0.77〜0.96、P=0.006)。一方DCISでは、胸部放射線療法を補正した発症率は5年ごとに22%有意に上昇(同1.22、1.05〜1.41、P=0.009)、その他の発症率の上昇傾向が認められた。

 Henderson氏は「これらの知見は小児がんサバイバー女性における二次乳がんリスク予測を精緻化し、リスクを最小化するために極めて重要」と結論。「今後は2000年以降に導入された新規治療(陽子線、リンパ節を含む放射線療法、免疫療法など)に関連する二次乳がんリスクを検証する必要がある」と付言している。

(菅野 守)

  • Childhood Cancer Survivor Study