英・University of NottinghamのDanah Alothman氏らは、英国の一次/二次医療の大規模な住民データを用いた症例対照研究で、認知症の診断と自殺リスクの関連について検討。全般的には認知症の診断と自殺リスクに関連は認められなかったが、①診断時年齢が65歳未満、②診断後3カ月以内、③他の精神疾患の併存例―の3つのサブグループでは自殺リスクの上昇が認められ、中でも①と②の条件を満たす認知症患者では非認知症者と比べて自殺リスクが約7倍とする結果をJAMA Neurol(10月3日オンライン版)で報告した。
15歳以上の住民59万4,674例を解析
認知症患者の自殺リスクについてはこれまでにも複数の研究で検討されてきたが、一貫した結果は示されていなかった。その一方で、認知症の診断時年齢が低いこと、認知症と診断されて間もないことなどが自殺の独立した危険因子であることが示唆されていた。
Alothman氏らは、一次医療、二次医療の電子医療記録の他、英国の国家統計局のデータを収集。2001~19年に自殺または原因不明の死亡として国家統計局に登録された15歳以上の住民のデータを抽出し、自殺による死亡例1例に対して同じ一次医療施設を受診していたなどの条件でマッチングさせた最大で40例の生存例をランダムに抽出した。
解析対象は59万4,674例で、このうち1万4,515例(2.4%)が自殺による死亡例、58万159例(97.6%)が対照群であった。死亡年齢(中央値)は自殺群47.4歳〔四分位範囲(IQR)36.0~59.7歳〕、対照群81.6歳(同72.0~88.4歳)、男性の割合は自殺群74.8%、対照群50.0%であった。解析には条件付きロジスティック回帰モデルを用いた。
3つのサブグループでリスク1.5~2.8倍
検討の結果、全体としては認知症の診断と自殺リスクに有意な関連は認められなかった〔調整後オッズ比(aOR)1.05、95%CI 0.85~1.29〕。しかし、認知症患者のうち65歳未満で認知症と診断された群(同2.82、1.84~4.33)、診断後3カ月以内の群(同2.47、1.49~4.09)、他の精神疾患が併存する群(同1.52、1.21~1.93)では自殺リスクが有意に上昇していた。特に65歳未満で「認知症と診断され、かつ診断後3カ月以内の患者では、非認知症者と比べて自殺リスクが6.69倍高いことが示された(同6.69、1.49~30.12)。
Alothman氏らは「今回の症例対照研究では、認知症の診断が特定のサブグループにおける自殺リスクの上昇に関連していることが示された」と結論。この結果を踏まえ、認知症の診断においては、自殺リスクが高い認知症患者を対象としたリスク評価と支援を合わせて実施することを提唱している。
(岬りり子)