自分が担当する患者が医師(医師患者)である場合、特別扱いをしてしまい標準治療から逸脱した医療を提供する恐れがある。この現象は、医師が同朋の医師をVIPと見なすときに発生するため、「VIP症候群」と言われている。米・Emory UniversityのAnna M. Avinger氏らは、医師患者を治療した経験のある医師を対象に、VIP症候群に対する認識とVIP症候群に寄与しうる態度または行動について評価する質的研究を実施。結果をJAMA Netw Open2022; 5: e2236914)に報告した。

21人に面接し、VIP症候群の認識と寄与因子を評価

 Avinger氏らは、米・アトランタにある総合がんセンターWinship Cancer Institute of Emory Universityの勤務医78人に電子メールで案内を送り、返信のあった24人のうち医師患者の治療経験がない3人を除外。残る21人(男性52%、白人52%、49歳未満71%)に面接を実施した。質的研究に関する既報を基に、今回のテーマにおいてデータ飽和に至るのに十分なサンプル数は15~20人と判断した。

 第1段階では、全21人に構造化面接(電話、ビデオ会議または対面で20~30分)を実施。自由回答式およびリッカート尺度を用いた選択式(10問)の質問により、医師患者の治療に対する医師の認識を評価し、VIP症候群に寄与しうる因子を同定。自由回答式への回答は、標準的な複層意味分析により質的にコード化した。

 構造化面接の回答を基に7人(VIP症候群低リスク2人、中等リスク3人、高リスク2人)の主要情報提供者を選択して、構造化面接から1カ月後に第2段階の面接を実施した。

過半数がストレスや医師患者からの指図を経験

 13人(62%)が医師患者の治療に対して否定的感情(ストレス、気まずさ、審査をされている感覚など)を、9人(43%)が肯定的感情(名誉、安心、共感など)を抱いたと表明した。また、13人(62%)が他の患者と扱いが異なる部分のあることを認めた。ただし、通常の治療計画を変更したとの回答はなかった。

 回答者の多くが、医師患者の治療においてストレス上昇(11人、52%)、医師患者を落胆させないためのプレッシャー(12人、57%)、治療法に対する医師患者の指図・強い要望(11人、52%)を経験していた。

主な特権は個人連絡先入手と優先的な予約・治療アクセス

 17人(81%)が、医師患者は特権を持つ、または有利な立場にあると答え、うち5人がそれに懸念を示した。三大特権として、①医療知識を活用した詳しい相談と意思決定、②担当医の個人連絡先の入手・利用、③優先的な予約・治療アクセス―が同定された。

 第2段階の面接では、医師患者の特権は、個人連絡先の入手・利用と優先的な予約・治療アクセスに集約された。7人のほとんどが、「公平な治療をすべきという認識との間に葛藤がある」としつつも、特権は必ずしも悪いことではないとして、「自分自身も特権を利用する(したことがある)」と答えた。

 Avinger氏らは「医師患者の治療に当たる医師の過半数が、医師患者の特権を認識し、ストレスやプレッシャー、医師患者からの指図を経験しており、両者の関係性が治療全体に影響を与えると回答したことから、VIP症候群のリスクが存在することが示唆された」と結論。また、「今回の研究では、全例が標準的な治療からの逸脱はなかったと答えているが、無意識に行われている可能性もあり、今後、実際の治療法とアウトカムを検討する研究、さらには公平性を担保できるようなガイドラインの策定が必要である」と指摘している。

(小路浩史)