日本集中治療医学会および日本救急医学会は、両学会合同で作成した『日本版敗血症診療ガイドライン2020』(J-SSCG2020)における、敗血症患者への急性期ビタミンC投与に関する推奨の強さを「投与を行うことを弱く推奨する(弱い推奨)」から1段階低い「投与を行わないことを弱く推奨する(弱い非推奨)」に変更した。両学会は10月4日、推奨の変更を各学会誌にレターとして掲載。その後、関連学会にも通達した。
望ましい効果は「小さい」、望ましくない効果は「わずか」
近年、敗血症患者へのビタミンC投与により生存率が改善する可能性が報告され、注目されている。その一方で、投与に伴う急性腎障害(AKI)発現への懸念が持たれている。
そのため、J-SSCG2020特別委員会ではビタミンC投与における益と害のバランスを明らかにすることを重要臨床課題とし、J-SSCG2020で急性期の敗血症患者へのビタミンC静注に関するクリニカル・クエスチョン(CQ)を採用。該当するランダム化比較試験(RCT)11件のメタ解析から、28日死亡、院内死亡、集中治療室(ICU)滞在日数、28日および90日死亡などに基づき、ビタミンC投与による望ましい効果は「小さい」と判断。望ましくない効果については院内滞在日数が延長傾向にあり、「わずか」とした。
これらを踏まえJ-SSCG2020では、敗血症患者に対しビタミンC投与を行うことを「弱く推奨する」(GRADE 2D:エビデンスの確実性「非常に低」)としている。
しかし今回、「敗血症患者にビタミンCの投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)」に変更された。
新たに12件のRCTを追加し計23件で解析
推奨変更の契機となったのは、今年(2022年)6月に発表された敗血症患者に対するビタミンC投与による死亡・臓器機能障害のリスク低減効果を検討した、第Ⅲ相多施設共同RCTであるLOVITの結果だ(関連記事「敗血症へのビタミンC静注で死亡リスク増加」)。
対象はICUに入室し昇圧薬を投与中の敗血症患者で、プラセボ群(434例)に対しビタミンC投与群(429例)では28日死亡または持続的な臓器機能不全リスクが有意に高かった〔リスク比1.21、95%CI 1.04~1.40、P=0.01〕。死亡および持続的臓器機能不全は、いずれも両群に有意差はなかった。
この結果を受けJ-SSCG2020特別委員会は、新たに12件を追加し計23件のRCTでメタ解析を実施。望ましい効果であるICU滞在日数に関する効果推定値(RCT 16件・3,534例)は、ビタミンC投与群で平均差(MD)が0.25日短く(95%CI -0.72~0.22日)、望ましい効果は「わずか」と判断された。
一方、望ましくない効果である死亡に関する効果推定値(RCT 6件・2,881例)は、エビデンスの確実性が最も高い長期死亡のリスク差(RD)が1,000人当たり42例多く(95%CI8~83人多い)、AKIに関する効果推定値(RCT9件・2,230例)のRDは6人多かった(95%CI-20~38人)。また、入院期間に関する効果推定値(RCT 12件・3,407例)のMDは0.24日長く(95%CI-0.97~1.45日)、望ましくない効果は「中」と判断。効果のバランスはプラセボ群が優位であると考えられ、エビデンスの確実性は「非常に低」とするなどして、今回の変更に至った。
(田上玲子)