変形性関節症(OA)の臨床試験では、治験薬の有効性を評価する対照薬としてプラセボが使用されることがあり、プラセボ効果が高まるケースも報告されている。そうした場合、治験薬の有効性の正確な評価が困難であるため、プラセボ効果に影響を及ぼす因子についての理解はOA治療薬開発を成功に導くために重要となる。中国・Southern Medical UniversityのXin Wen氏らは、これまで実施されたOA治療薬の二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析によりOAの経口プラセボ効果モデルを開発し、プラセボ効果やそれに影響を及ぼす因子を検討。その結果、ベースライン時のOAの重症度がプラセボ効果と有意に関連していることが判明したと JAMA Netw Open(2022; 5: e2235060)に発表した。
130臨床試験の1万2,673例をMBMA手法で解析
Xin氏らによると、OA治療の国際ガイドラインでは治療法として複数の経口薬が推奨されており、現在進行中のOAへの有効性を検討する臨床試験の大半が経口薬を用いているため、経口薬のプラセボ効果を調査することが不可欠である。また、OAの疼痛管理には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)が基本薬として使用されており、NSAIDの使用割合などの他の要因が経口プラセボ効果に及ぼす影響については不明である。さらに、これまでのOAの臨床試験におけるプラセボ効果およびそれに関連する因子を検討したメタ解析の手法では、プラセボ効果の経時的変化が考慮されていないという問題があったという。
そこで同氏らは、モデルベースのメタ解析(MBMA)を用いて、OAにおけるプラセボ効果モデルの開発を目的に研究を実施。MBMAとは数式モデル解析(MB)とメタ解析(MA)を組み合わせた新規拡張型データ解析法で、プラセボ効果の経時的変化や影響因子の定量的評価を可能とし、臨床試験の成功率を向上させる薬力学的モデルに基づく医薬品開発手法である。
PubMed、EMBASE、Cochrane Libraryのデータベースから、1991年1月1日~2022年7月2日に掲載された原発性OAに関連するRCTを検索し、3,032件を特定した。このうちOA患者に対する治験薬およびプラセボが経口投与され、少なくとも1つのWestern Ontario and McMaster Universities Osteroarthritis Index(WOMAC)サブスケールスコアが報告されたRCT 130件・1万2,673例(平均年齢59.9歳、女性68.9%)を抽出した。これらを対象にMBMAを用いてOA治療におけるプラセボ効果の時間経過を評価し、影響因子を推定した。なお、WOMACは日常生活動作における疼痛、こわばりおよび機能制限を評価する疾患特異的尺度である。
治験薬の正確な有効性評価には、8週以上の投与期間が必要
36週間を超えてデータを報告した研究は130件中10件だったため、モデルの信頼性を理由に36週間以内に収集されたデータのみを解析した。その結果、共変量を調整後、WOMACの疼痛、こわばりおよび機能のベースラインスコアが理論上最大のプラセボ効果と有意に関連していることが判明した。
最終モデルにおける適合度(goodness-of-fit)プロットは、観察されたデータにモデルが適合することが示された。視覚的事後予測性能評価(visual predictive check)では、モデルシミュレーションから導き出されたプラセボ効果の90%CIが観察されたデータの大部分をカバーしており、モデルの予測能が高いことが示唆された。また、ブートストラップ法で得られたモデルパラメータの中央値が元の推定値に近く、モデルの安定性が高いことが示された。
各WOMACサブスケールのベースラインスコアはプラセボ介入後の症状の改善と関連しており、ベースライン時の症状の重症度が高いほどプラセボ効果が高いことが示された。Xin氏らは、この関連性を正確に定量化することができたという。
さらに、WOMACサブスケールのプラセボ効果は、疼痛スケールでは5.39週間、こわばりスケールでは7.04週間、機能スケールでは7.08週間で有効性がプラトー(最大効果の90%)に達していた。したがって、WOMACサブスケールを主要評価項目に用いるOAの臨床試験において治験薬の有効性を正確に評価するためには、プラセボ効果が安定するまでの期間を加味した8週以上の治療期間が必要であることが示唆された。
サンプルサイズ、治験薬、NSAIDの使用割合に関連
またサブグループ解析では、プラセボ効果はサンプルサイズ、治験薬、NSAIDの使用経験がある患者の割合、論文の出版年にも関連していた。しかし、プラセボの剤形、Kellgren-Lawrence分類によるOAの重症度、人種・民族については、サブグループ間の典型的なプラセボ効果の90%CIが完全に重複していたため、プラセボ効果との関連は見られなかった。
これらの知見を踏まえ、Xin氏らは「今回の研究ではMBMA手法を使用して、さまざまな条件下におけるWOMACの疼痛、こわばり、機能のサブスケールに対する経口プラセボ効果の経時的変化を正確に推定できるOAの経口プラセボ効果モデルを構築した。このモデルはプラセボ効果を定量的に評価する有用なツールとなる可能性があり、将来の臨床試験デザインおよび臨床現場での意思決定において貴重な資料となる可能性がある」と述べている。
(宇佐美陽子)