カナダ・Centre for Addiction and Mental Health/University of TorontoのDaniel M. Blumberger氏らは、60歳以上の治療抵抗性うつ病(TRD)患者172例を対象にした評価者盲検ランダム化非劣性試験で、治療時間が極めて短時間で済むシータバースト刺激(TBS)(治療時間4分)と標準的な反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)(同47.5分)の有効性と忍容性を比較。その結果、抑うつ症状の改善に関してrTMS療法に対するTBS療法の非劣性が示されたとJAMA Psychiatry2022年9月21日オンライン版)に発表した。

全評価項目でTBSがrTMSに非劣性 

 対象はMontgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS)スコアが18点以上で中等症TRDと診断され、1種類以上の抗うつ薬が奏効しなかったか、2種類以上の抗うつ薬に忍容性がなかった60歳以上の外来患者172例。対象をrTMS群(87例、平均年齢67.1歳、女性54.0%)とTBS群(同85例、66.3歳、52.9%)に1:1でランダムに割り付けて4~6週間治療した。

 治療にはMagPro X100を用い、rTMS群では右側前頭前野背外側部(DLPFC)に1Hz、安静時運動閾値(RMT)120%、600パルスの刺激を10分間行い、続いて左側DLPFCに10Hz、120%RMT、3,000パルスの刺激を4秒オン26秒オフで37.5分行った。TBS群では右側DLPFCに120RMTで50Hzの高刺激を5Hz間隔で600パルス、40秒間行い、続いて左側DLPFCに同じ強度の刺激を2秒オン、8秒オフで600パルス、3分9秒間行った。

 主要評価項目はMADRSスコアのベースラインから治療終了までの変化とした。副次評価項目は、ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HAMD-17)、自己記入式簡易抑うつ症状尺度16項目(QIDS-SR-16)、各スコアに基づく奏効率および寛解率、治療脱落率とした。

 解析の結果、ベースライン→治療終了時のMADRSスコア(平均値±標準偏差)の変化は、rTMS群で25.6±4.0点→17.3±8.9点、TBS群で25.7±4.7点→15.8±9.1点といずれも改善が認められた。治療終了時MADRSスコアの調整後群間差は1.55点(95%CI下限-0.67点、90%CI -0.66~3.75点、P<0.001)で、事前に設定した非劣性マージンの2.75点を下回り、rTMSに対するTBSの非劣性が示された。

 副次評価項目の解析では、MADRSスコアに基づく奏効率(ベースラインから50%以上のスコア改善)はrTMS群の32.9%に対しTBS群では44.3%(調整後群間差11.4%、95%CI下限-1.1%、90%CI -1.10~23.80%、P<0.001)、寛解率(MADRSスコア10以下)はrTMS群の32.9%に対しTBS群で35.4%(同2.5%、-9.7%、-9.70~14.70%、P=0.046)と、群間差が事前に設定した非劣性マージンのそれぞれ15%、10%を下回り、いずれもrTMSに対するTBSの非劣性が示された。その他の全ての副次評価項目でもTBSの非劣性が確認された。

疼痛スコアはTBS群で高いが、脱落率に差なし

 有害事象の評価では、頭痛(rTMS群56.3% vs. TBS群54.1%)、めまい(同19.5% vs. 21.2%)、不安/興奮(同8.0% vs. 9.4%)、悪心(同6.9% vs. 8.2%)などの発現率は両群で同等だった。

 一方、疼痛スコア〔0(疼痛なし)~10(耐えられない疼痛)〕はTBS群に比べてrTMS群で有意に低かった(右側刺激でrTMS群1.66±1.79 vs. TBS群3.59±2.45、左側刺激で2.80±1.99 vs. 4.01±2.55)。ただし、疼痛スコアの高さによる治療脱落率の上昇は見られず、脱落率は両群に有意差がなかった〔rTMS群87例中2例(2.3%) vs. TBS群85例中6例(7.1%)、P=0.14、χ2=2.2〕。

 以上を踏まえ、Blumberger氏らは「高齢TRD患者における抑うつ症状の改善効果に関して、標準のrTMS療法に対するTBS法の非劣性が認められた。いずれの治療法も脱落率が低く忍容性が高かった。治療時間47.5分のrTMS療法に比べ4分と極めて短時間で済むTBS法の普及により、高齢TRD患者に対する磁気刺激療法が数倍に増える可能性を秘めている」と結論している。

(太田敦子)