DPP-4阻害薬が膵がんの発症リスクと関連するかについては議論が分かれている。岐阜大学大学院糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学の窪田創大氏、教授の矢部大介氏らは、国内の医療ビッグデータを用いて、DPP-4阻害薬と他の経口糖尿病薬の膵がん発症リスクを比較検討。その結果、DPP-4阻害薬で膵がんリスク上昇は認められなかったとJ Diabetes Investig(2022年10月25日オンライン版)に発表した。(関連記事「インクレチン関連薬は合併症を防ぐか?」)
安全性の検証には大規模かつ長期的な検討が必要
日本人を含む東アジア人はインスリン分泌不全による2型糖尿病が多く、治療にはインスリン分泌促進薬のスルホニル尿素(SU)薬やグリニド薬が頻用されてきた。2009年に低血糖リスクの低いDPP-4阻害薬が発売されると、同薬の処方が拡大。現在は、経口血糖降下薬を使用する糖尿病患者の6割以上に処方されている。
DPP-4阻害薬の安全性や有効性については、治験および市販後調査で十分に確認されている。しかし、膵がんの発症リスク上昇を示唆する動物実験の結果も報告されている。
膵がんは、複数の遺伝子変異が重なり段階的に発生するため、最初の遺伝子変異から10年以上を経て進行がんに進展する。特定の薬剤について膵がんに対する安全性を検証するには大規模かつ長期的な検討が必要であるため、DPP-4阻害薬の膵がんリスクは十分に検討されていなかった。
医療ビッグデータを解析
そこで窪田氏らは今回、国内の医療ビッグデータJMDC Claim Database(健康保険組合に所属する加入者が医療機関を受診した際に発行される全レセプト、健康診断結果)を用いて、DPP-4阻害薬による膵がん発症リスクを他の経口糖尿病薬と比較検討した。
対象は、2009年12月~19年6月にDPP-4阻害薬を新規に開始した6万1,430例(DPP-4阻害薬群)とDPP-4阻害薬以外の経口血糖降下薬を開始した8万3,304例(他の血糖降下薬群)。
主要評価項目は、DPP-4阻害薬を含む経口血糖降下薬の使用から膵がん発症までの期間および膵がんによる入院までの期間とした。追跡期間の中央値は、DPP-4阻害薬群が17カ月(四分位範囲8~33カ月)、他の血糖降下薬群が14カ月(同7~28カ月)だった。
2年以上血糖降下薬を継続している集団でもリスクは上昇せず
Kaplan-Meier解析の結果、膵がん発症までの期間はDPP-4阻害薬群と他の血糖降下薬群で有意差がなかった(P=0.7140、Log-rank検定)。膵がんによる入院までの期間についても同様に、両群間で有意差は認められなかった(P=0.3446、Log-rank検定、図)。
図.累積膵がん非発症率のKaplan-Meier曲線
(岐阜大学プレスリリースより)
膵がんのリスクとなりうる加齢、性、膵疾患(膵管内乳頭粘液性腫瘍、慢性膵炎、膵囊胞)、多量飲酒を調整後の解析でも、他の血糖降下薬群に対するDPP-4阻害薬群の膵がん発症リスク、膵がんによる入院リスクの上昇は認められなかった(膵がん:ハザード比1.1、95%CI 0.8~1.3、P=0.6518、膵がんによる入院:同1.1、0.8~1.4、P=0.6662)。
血糖降下薬を2年以上継続している集団の追加解析においても、DPP-4阻害薬の使用による膵がん発症リスクの上昇は認められなかった。
以上から、窪田氏は「日本の臨床で集積された医療ビッグデータの解析から、DPP-4阻害薬の使用による膵がんリスクの上昇は認められなかった。この知見は、経口糖尿病薬を処方されている患者の6割以上が服用しているDPP-4阻害薬の安全性を示す上で重要だ」と結論している。
(比企野綾子)