自閉症スペクトラム障害(ASD)は頻度が高い神経発達症の1つで、一般人口の有病率は2~3%程度だが、在胎37週未満で出生した早産児においては8%と約4倍に高まる。しかし、原因や機序については不明だった。近年、ASDを含むさまざまな神経発達症児において腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が報告されており、それに基づく研究が注目されている。関西医科大学小児科学講座の藤代定志氏らは、在胎37週未満で出生し5歳時点でASDと診断された小児を対象に腸内細菌叢の特徴を検証。ASD児では定型発達児と腸内細菌叢が大きく異なることを見いだしたとJ Autism Dev Disord2022年7月10日オンライン版)に発表した。

遺伝子解析により腸内細菌叢の多様性と細菌構成を検討

 ヒトの体内には40兆個超の細菌が存在し、90%以上は腸内に存在する。腸内細菌叢は腸管内でバランスの取れた群集として共存し、脂質、蛋白質、難消化性物質の代謝やヒトの大腸で腸内細菌がつくる酸(有機酸)の一種である短鎖脂肪酸の生産を担っている。

 近年、次世代シークエンサーを用いた16S rRNA遺伝子解析により、腸内細菌叢の詳細な解析が可能となり、dysbiosisがさまざまな疾患の発症に関与していることが示されている。また腸内細菌叢と脳機能は腸脳相関と呼ばれる相互関係にあることも知られ、腸内細菌叢が脳機能に及ぼす影響が注目されている。ASDを含むさまざまな神経発達症児でもdysbiosisの報告がされていることから、藤代氏らはASD児における腸内細菌叢の特徴を明らかにすることを目的に研究を行った。

 対象は在胎37週未満で出生し、5歳時点でASDと診断された小児7例(ASD群)と、同じく早産で生まれた定型発達児9例(TD群)。便検体を採取して便中の細菌DNAを抽出、16S rRNA遺伝子解析を行って腸内細菌叢の多様性と細菌構成について検討した。また、腸内細菌叢に直接影響を及ぼす抗菌薬およびプロバイオティクスの使用状況、偏食の有無などに関するアンケート結果や出生状況、出生後の治療についても検討した。

 その結果、ASD群ではTD群に比べて腸内細菌叢の多様性が高いことが分かった。また、腸内細菌叢の構成が、TD群と比べてASD群は門レベルではFirmicutesが多く、目レベルではClostridialesが多かった。種レベルではRuminococcus gnavusBifidobacterium longumが有意に多く、Megasphaera speciesSutterella wadsworthensisは有意に少なかった()。

図. 腸内細菌構成の比較(目レベル)

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(関西医科大学プレスリリースより)

 藤代氏らは「R. gnavusは腸管粘液の主成分であるムチンを分解して粘膜層を脆弱化することが報告されており、この作用を介して腸内細菌が血管内に入り込むことで、ASDの発症に寄与している可能性がある」と考察している。

 以上を踏まえ、同氏らは「16S rRNA遺伝子解析により、早産のASD児におけるdysbiosisの特徴を明らかにした。ASDの病因の解明や腸内細菌叢を標的としたASDの新規治療法の開発につながることが期待される」と結論している。

(小野寺尊允)