京都大学社会健康医学系健康情報学分野の西村真由美氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の病院内で終末期を迎えたCOVID-19患者とその家族に対し、どのような終末期ケアが提供されたかを検討する質的研究を行い、その結果をChest2022年10月15日オンライン版)に発表した。回答した医療機関で51の取り組みが行われたことが判明し、①患者との関係性の維持、②患者と家族のつながりの構築、③意思決定の共有、④人間的なエピソードの創出―の四大テーマが浮かび上がった。

13都道府県、23病院の医療者33人が回答

 近年、「理想的な最期」についての研究の発展により、終末期ケアの提供モデルや評価方法、ガイドラインの策定が進んでいる。患者が終末期を平穏に過ごすためには痛みの軽減、自律性、他者との良好な関係、人生への達成感、宗教的な儀式などが必要な要素とされる。しかし、COVID-19患者は隔離に伴い最期の過ごし方を選ぶ自由や面会が制限され、自律性の喪失や孤独を感じる場面が多く、精神面でのケアに難渋した例が多い。

 そこで西村氏らは今回、2020年3月~21年12月にCOVID-19患者とその家族に対して終末期ケアを提供した医療従事者を対象に、ウェブ会議システムを用いた半構造化オンライン面接を実施し、終末期ケアの実態について検討した。回答したのは13都道府県の23病院に勤務する医師15人と看護師18人の計33人で、女性が16人(48%)、年齢は20~59歳(45%が30~39歳)だった。

 解析の結果、患者のケア(身体的ケア、心理的・精神的あるいはスピリチュアルなケア、死後のケア)、患者と家族の双方のケア(看取りの環境の整備、意思決定の共有、死別のケア)、家族のケアとして計51の取り組みが行われていたことが示された()。

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(編集部作成)

間接的なコミュニケーションなど、関係性の構築に重点

 中でも、COVID-19患者の終末期ケアにおける重要な取り組みとして、①患者との関係性の構築・維持、②患者と家族のつながりの構築、③意思決定の共有、④人間的なエピソードの創出―の4つのテーマが浮上した。

 ①では、感染対策として患者との接触時間が限られた状態で、患者の孤独に寄り添う、反応のない患者にも話しかける、孤独な死を避ける(家族または医療従事者の立ち会い)という取り組みが見られた。

 ②では、患者に家族からの手紙や見舞い品を渡す、挿管前に家族との会話を可能にするウェブ会議システムを用いた間接的なコミュニケーションなどの取り組みが見られた。個人用防護具(PPE)の供給が安定した2021年10~12月には、PPE装着の家族に短時間の面会を許可する病院が増えた。

 ③では、厳格な感染対策により患者、家族、医療従事者が互いに孤立した状態にあり、患者に関する情報や意思決定の共有が困難になっていた。家族の苦痛を理解する、ビデオなどを活用して患者の医学的状態を分かりやすく伝える、患者の隠れた本心を探るなどの努力がなされていた。患者の状態を記録したICU日記を提供した例もあり、家族がICU日記を読んで「患者はあらゆる治療を受けた」と実感することが、治療に関する意思決定に影響を及ぼした。

 ④では、COVID-19患者が死亡した場合は、家族との最期の対面もなく火葬されることが多いため、思い出となる人間的なエピソードをつくり出す努力がなされていた。PPE装着の家族が遺体に触れることを許可する、遺体袋に手紙を入れるなどの家族の関与、ICU日記による終末期の患者の様子の共有、家族が患者の顔を見られる透明な遺体袋の使用などの取り組みが見られた。

 西村氏らは「四大テーマの適切な認識と実践が、より良い終末期ケアの提供に役立つことが示唆された。制限下でのコミュニケーションによって、人間的なエピソードを創出することは特に重要だ。ICU日記やお別れの儀式は、家族のグリーフケアと医療者への信頼にもつながる可能性がある」と述べている。

(太田敦子)