大腸がんの同時性肝転移の治療や予後については比較的知られているが、異時性肝転移との比較で、発生率や疫学的特徴、予後を検討した研究は少なく、両者の予後の相違については意見が一致していない。フランス・University Hospital La Cavale BlancheのNoémi Reboux氏らは、地域のがん登録データを用いて約40年間における転移時期別の肝転移発生率を特定し、生命予後を比較する住民研究を実施。異時性肝転移については約30年で発症率は半減、生命予後も改善していたとJAMA Netw Open2022; 5: e2236666)に報告した。

同時性肝転移には大きな変動見られず

 Reboux氏らは、フランス東部の2県(合計人口約108万2,000人)における消化器がん登録を基に、1976~2018年に新たに大腸腺がんと診断された2万6,813人〔男性56.1%、年齢中央値73歳(四分位範囲64~81歳)〕を抽出。症例の臨床的特徴、診断、治療、診断時の年齢やステージなどの情報を収集し、同時性肝転移および異時性肝転移の発生率と生命予後を検討した。

 同時性肝転移は4,546人(17.0%)で認められた。同時性肝転移の年齢標準化発生率(人口10万人対)は、男性6.9、女性3.4で、男性では1976〜99年に上昇していた。部位別に見ると上昇は結腸のみで認められ、S状結腸移行部および直腸では見られず、2000年以降は男女とも有意な変動はなかった。

 一方、異時性肝転移については、5年累積発生率は1976~80年の18.6%(95%CI 14.9~22.2%)に対し2006~11年は10.0%(同8.8~11.2%)と有意に低下した(P<0.001)。

 多変量解析で異時性肝転移に関連する因子を検討した結果、女性〔部分分布ハザード比(sHR)0.76、95%CI 0.66~0.88、P<0.001〕、年齢75歳以上(同0.81、0.66~0.94、P=0.008)、診断年(例:1976~80年に対する2006~11年:同 0.49、0.37~0.63、P<0.001)とは負の相関、潰瘍性および浸潤がん(同1.22、1.04~1.45、P=0.02)とは正の相関が認められた。最も強い肝転移危険因子は診断時の病期で、ステージⅡに対するステージⅢの5年以内の肝転移発生率は2倍以上だった(同2.42、2.08~2.82、P<0.001)。

異時性肝転移例で純生存率が高く、生存率も大きく改善

 同時性肝転移例と異時性肝転移例の1年純生存率はそれぞれで41.8%、49.9%、5年純生存率は6.2%、13.2%だった。経時的な純生存率の改善は、同時性肝転移例と比べて異時性肝転移例で大きかった。同時性肝転移例の5年純生存率は1976〜80年が3.5%、2011〜16年が9.4%だったのに対し、異時性肝転移例ではそれぞれ2.1%、25.2%と大幅に改善した。1975~80年に対する2011〜16年の過剰HRは、同時性肝転移の0.37(95%CI 0.37~0.44)に対して異時性肝転移では0.23(同0.16~0.34)だった(交互作用のP<0.001)。

 性、年齢、転移部位を調整後、異時性肝転移と比べ同時性肝転移は有意な予後不良と関連していた(過剰HR 1.45、95%CI 1.33~1.57、P<0.001)。

 Reboux氏らは「大腸がん患者の同時性肝転移の発生率に経時的な変動はなかったが、異時性肝転移の発生率は約2分の1に低下した。また、異時性肝転移例では生命予後が著明に改善したが、同時性肝転移例における改善は小さかった」と結論。「大腸がんからの肝転移発生時期による疫学的特徴の相違は、今後の臨床試験のデザインにおいて有用」と付言している。

(小路浩史)