京都大学iPS細胞研究所(CiRA)教授の井上治久氏、徳島大学病院脳神経内科教授の和泉唯信氏らの共同研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象に医師主導治験として第Ⅰ相iDReAM試験を行い、同薬の安全性と忍容性および探索的に有効性を評価した。その結果、100~300mg/日の用量で忍容性が良好であることをLancet2022年10月26日オンライン版)に発表した(関連記事「慢性骨髄性白血病治療薬ボスチニブ、ALSを対象に第Ⅱ相を開始」「注目高まるALS治験の最新動向を解説」)。

iPS細胞を用いてALSの病態を再現

 ALSは運動神経細胞が変性して筋萎縮と筋力低下を来す進行性の疾患であり、個人差はあるが発症後に人工呼吸器を使用しなければ数年で死に至る。進行を緩和する薬剤はあるものの、根治療法は確立されていない。

 先行研究においてSrc/c-Abl経路がALSの潜在的治療標的分子となりうること、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬のボスチニブがSrc/c-Abl経路阻害薬として強い抗ALS病態効果を有することを報告している(Sci Transl Med 2017; 9: eaaf3962)。

 研究グループはこれまで、ALS患者由来の人工多能性幹(iPS)細胞から作製した運動神経細胞を用いてALSの病態を再現、薬効評価できることを見いだした。病態の中核である運動神経細胞の細胞死と異常蛋白質の蓄積を抑制する化合物のスクリーニングを行うiMNシステムを開発。同システムを用いて既存薬を含む1,416種の化合物をスクリーニングしたところ、Src/c-Abl経路阻害薬としてボスチニブを同定した。同薬は、オートファジーを促し、ALSの病態の1つである折り畳み異常を来した蛋白質(ミスフォールディング蛋白質)を抑制することが分かった。

 そこで、ALS患者におけるボスチニブの安全性と忍容性を評価し、最大許容用量と第Ⅱ相推定用量を決定するiDReAM試験を実施。探索的に有効性も評価した。同試験では、まずALS患者3例にボスチニブ100mg/日を投与して安全性を評価。その後、3+3用量漸増試験として、同薬200mg/日群、300mg/日群、400mg/日群に3例ずつ割り付けて12週間投与した。

9例中5例でALSFRS-Rスコアの低下を抑制

 その結果、ボスチニブ100~300mg/日群の9例は12週間の試験を完遂したが、400mg/日群の3例は有害事象により中断した。全体では下痢、肝機能障害などの有害事象が認められ、投与調整や支持療法による管理が必要なケースもあった。

 試験完遂者を対象にALS症状の進行を示す指標ALS functional rating scale-revised (ALSFRS-R)の変化を調べたところ、9例中5例がボスチニブ投与後に同スコアの低下が抑制されていた。それらの患者では、投与前の神経細胞の軸索突起に豊富に含まれる細胞骨格の成分である血漿中ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の量が少なかった()。

図. iDReAM試験の投与スケジュールとALSFRS-Rの変化量

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(CiRAプレスリリースより)

 以上を踏まえ、井上氏らは「ALS患者で認められたボスチニブの有害事象は、CMLと同様に100~300mg/日投与の用量レベルでは忍容性は良好であった。投与調整や支持療法による管理が必要な場合があったものの、探索的有効性解析では投与期間においてNfL値が低い患者ではALSFRS-Rの低下が抑制され、一部の患者でALSの進行の停止が見られた」と結論。「症例数が少ないため、さらなる検証を行うべく、第Ⅱ相試験を進めている」と付言している。

(小野寺尊允)