糖尿病治療薬が認知症のリスクと関連するとの報告があるが、現時点で一貫した結果は得られていない。米・University of Arizona Mel and Enid Zuckerman College of Public HealthのXin Tang氏らは、60歳以上の2型糖尿病患者約56万例を対象に、経口糖尿病治療薬であるスルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬(TZD)、メトホルミン(MET)による治療の認知症発症リスクを比較する前向き観察研究を実施。その結果、認知症発症リスクはMET治療と比べTZD治療で22%低く、SU薬治療で12%高かったと、BMJ Open Diabetes & Care(2022; 10: e002894)に発表した。
退役軍人省保健医療システムの電子カルテを解析
対象は、米国退役軍人省(Veterans Affairs)保健医療システム(Healthcare System)の電子カルテから抽出した、1年以内に経口または注射の糖尿病治療薬を使用しておらず、2000年1月1日~17年12月31日にMET、SU薬、TZDを開始した認知症未発症の60歳以上の2型糖尿病患者55万9,106例。平均年齢±SDは65.7±8.7歳で、白人76.8%、男性96.9%、肥満者63.1%を含み、平均HbA1c±SDは6.8±1.0%だった。
経口糖尿病治療薬の投与前12カ月間および投与後6カ月間をベースライン期間とした。ベースライン期間終了時に処方されていた経口糖尿病治療薬で対象を①SU薬単剤群(12万5,870例)、②TZD単剤群(5,432例)、③MET単剤群(29万6,201例)、④MET/SU薬併用群(12万2,928例)、⑤MET/TZD併用群(4,132例)、⑥SU薬/TZD併用群(4,543例)―に分けた。
主要評価項目は追跡期間中に診断された全認知症の発症、副次評価項目はアルツハイマー病(AD)と血管性認知症(VaD)の発症とした。認知症は国際疾病分類第9版(ICD-9)および第10版(ICD-10)により定義した。
ベースライン時、治療1年後に評価する一次分析、治療を2年間に延長して再評価する二次分析を行った。平均追跡期間は6.8年だった。
SU薬使用患者では定期的な認知機能のモニタリングが重要
検討の結果、全認知症の発症率は1,000人・年当たり8.2例(95%CI 6.0~13.7例)で、SU薬/TZD併用群で最も高く(13.4例/1,000人・年)、MET単剤群で最も低かった(6.2例/1,000人・年)。
一次分析の結果、MET単剤群に比べ、TZD単剤群で全認知症発症リスクが22%低下〔調整後ハザード比(aHR)0.78、95%CI 0.75〜0.81)。AD発症リスクは11%低下(同0.89、0.79〜0.99)、VaD発症リスクは57%低下した(同0.43、0.37〜0.51)。また、MET/TZD併用群でも全認知症発症リスクが低下した(同0.89、0.86~0.93)。
一方、SU薬単剤群では全認知症発症リスクが12%上昇し(aHR 1.12、95%CI 1.09〜1.15)、VaD発症リスクも14%上昇した(同1.14、1.04〜1.24)。また、SU薬を含む併用治療群で全認知症およびVaDの発症リスクが上昇した。
Tang氏らは「SU薬使用患者では、認知機能の定期的なモニタリングが重要だ」とコメントした。
チアゾリジン薬は75歳以下や肥満の集団で高い有用性
治療を2年間に延長した二次分析でも、SU薬単剤群およびMET/TZD併用群における全認知症発症リスクのパターンは変わらなかったが、TZD単剤群でリスクの低減傾向が強まった(aHR 0.65、95%CI 0.62〜0.68)。一方、MET/SU薬併用群では治療を2年に延長すると全認知症の発症が抑制に転じた(同0.91、0.88〜0.95)。
さらにサブグループ解析を行ったところ、75歳超の集団に比べ、75歳以下の集団でTZDによる発症抑制の恩恵が多く得られた(各aHR 0.91、95%CI 0.86~0.96、同0.67、0.64~0.71、P<0.01)。これは、認知症は進行した段階での介入が難しく、早期予防の重要性を示すものだという。また、BMI 18.5~25未満の集団に比べ、BMI 25以上の集団でTZDによる認知症の発症抑制がより顕著だった(各aHR 0.98、95%CI 0.88~1.08、同0.72、0.68~0.77、P<0.01)。
Tang氏らは「2型糖尿病患者ではMET使用者と比べTZD使用者で認知症発症リスクが低く、SU薬使用者で高かった。SU薬で治療中の患者にMETまたはTZDを追加すると、認知症に対する負の影響が相殺される可能性がある」と結論。「今回得られた知見は、認知症発症リスクが高い高齢の2型糖尿病患者における薬剤選択に役立つ」と付言している。
(宇佐美陽子)