集中治療室(ICU)患者のせん妄予防に対しては定型抗精神病薬ハロペリドールが多用されているが、有効性は定かでない。デンマーク・Zealand University HospitalのNina C. Andersen‑Ranberg氏らは、ICU患者1,000例のランダム化比較試験(RCT)により、せん妄予防に対するハロペリドールの有効性を評価。ハロペリドール群とプラセボ群で、90日時点の平均生存・退院日数に有意差はなかったことなどをN Engl J Med(2022年10月26日オンライン版)に報告した。(関連記事「重症ICU患者へのせん妄予防薬で延命効果なし」)
ICU患者の半数に投与もエビデンスは希薄
せん妄はICU患者の30~50%で発生し、合併症や死亡リスクに関連している。治療に最も多用されているのがハロペリドールで、2018年発表の国際研究では、ICUせん妄患者の約半数に同薬が投与されていた。一方、RCTによる有効性の検討はほとんど行われておらず、エビデンスは希薄で、診療ガイドラインでは支持していない。
Andersen‑Ranberg氏らは、欧州5カ国のICU施設16カ所に急性期治療のため入院し、せん妄を呈した18歳以上の成人患者を、ハロペリドール群(510例)とプラセボ群(490例)に盲検下でランダムに割り付け90日間追跡した。ハロペリドール群には2.5mgを1日3回静脈内投与し、医師の裁量で合計最大用量20mg/日まで追加可能とした。
せん妄の評価は、CAM-ICU※1またはICDSC※2で行い、両群ともICUでせん妄が持続する間、または再発時に治療した。制御不能なせん妄にはレスキュー治療(プロポフォール、ベンゾジアゼピン、α2作動薬)を行ってもよいが、試験中の他の抗精神病薬投与は禁止した。主要評価項目は、ランダム化後90日時点での平均生存・退院日数とした。
平均差2.9日で有意差なし
最終解析対象は987例(98.7%)で、両群(ハロペリドール群501例、プラセボ群486例)の患者背景は同等だった。せん妄の種類は過活動型447例、低活動型540例だった。
投与量および投与日数の中央値は、ハロペリドール群で8.3mg/日、3.6日、プラセボ群で9.0mg/日、3.3日と、累積投与量は両群で同等だった。
主要評価項目のデータは、963例(97.6%)から入手。90日時点の平均生存・退院日数は、ハロペリドール群35.8日(95%CI 32.9~38.6日)、プラセボ群32.9日(同29.9~35.8日)で、施設およびせん妄の種類を調整後の絶対差は2.9日(95%CI −1.2~7.0日、P=0.22)だった。
90日時点の死亡率はハロペリドール群36.3%、プラセボ群43.3%と、調整後の絶対差は−6.9%ポイント(95%CI −13.0~−0.6%ポイント)だった。
重度有害反応は、ハロペリドール群11例、プラセボ群9例と両群で同等だった。また、レスキュー薬投与率はそれぞれ57.5%、62.1%で両群に差はなく、レスキュー薬の投与期間にも差はなかった(両群とも2.9日)。
以上を踏まえ、Andersen‑Ranberg氏らは「せん妄を呈するICU患者において、ハロペリドール治療は90日時点での有意な生存・退院日数の延長を示さなかった」と結論。また、今回の試験でハロペリドール群における死亡率が若干低かったことについて、「過去のRCTでは有意差はなく、結論を出すことはできない」としている。
※1 Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit
※2 Intensive Care Unit Delirium Screening Checklist
(小路浩史)