米・Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical SchoolのPhyo T. Htoo氏らは、メディケア請求データベースから抽出した65歳以上の高齢2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの心血管疾患(CVD)に対する有効性をGLP-1受容体作動薬リラグルチドおよびDPP-4阻害薬シタグリプチンと比較。その結果、リラグルチド群と比べてエンパグリフロジン群では心不全(HF)による入院(HHF)のリスク低下、シタグリプチン群と比べて主要心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、全死亡の複合)およびHHFのリスク低下が認められ、絶対リスク低下は心腎疾患の既往歴を有する患者でより大きかったとJAMA Netw Open2022; 5: e2237606)に発表した。

リラグルチドと比べCVD既往歴ありでMACEリスク低下

 解析対象は、2型糖尿病を有する65歳以上のメディケア受給者。1:1の傾向スコアマッチングを用い、エンパグリフロジンをリラグルチドと比較するコホート1に4万5,788例(各群2万2,894例、平均年齢71.9歳、女性51.1%)、シタグリプチンと比較するコホート2に4万5,624例(同2万2,812例、72.1歳、46.9%)を組み入れた。治療期間の中央値はいずれも5カ月だった(四分位範囲3~10カ月)。主要評価項目はMACEおよびHHFとした。

 コホート1を解析した結果、1,000人・年当たりのMACE発生率はエンパグリフロジン群とリラグルチド群でほぼ同等だった〔エンパグリフロジン群29.0 vs. リラグルチド群31.9、発生率差(RD)-2.92、95%CI -6.87~1.01、ハザード比(HR)0.90、95%CI 0.79~1.03〕。一方、1,000人・年当たりのHHF発生率はエンパグリフロジン群で有意に低かった(同8.4 vs. 12.6、-4.16、-6.50~-1.86、0.66、0.52~0.82)。

 サブグループ解析では、MACEリスク低下は動脈硬化性CVD(ASCVD)既往歴あり(HR 0.83、95%CI 0.71~0.98)、HF既往歴あり(同0.77、0.60~1.00)、慢性腎臓病(CKD)既往歴あり(同0.82、0.65~1.05)の高齢糖尿病患者で認められたが、これらの既往歴がない患者では見られなかった(それぞれHR 1.10、1.01、1.06)。

 一方、HHFリスク低下はこれらの既往歴の有無を問わず認められ、絶対リスク低下はASCVD既往歴あり(P=0.001)、HF既往歴あり(P<0.001)の高齢糖尿病患者で大きかった。

シタグリプチンと比べ全サブグループでMACE・HHFリスク低下

 コホート2を解析した結果、シタグリプチン群と比べてエンパグリフロジン群では1,000人・年当たりのMACE発生率(エンパグリフロジン群26.7 vs. シタグリプチン群39.1、RD -12.36、95%CI -16.53~-8.22、HR 0.68、95%CI 0.60~0.77)、HHF発生率(同7.8 vs. 17.3、-9.49、-12.08~-6.96、0.45、0.36~0.56)がいずれも有意に低かった。

 MACEおよびHHFのリスク低下は全てのサブグループで一貫して認められ、絶対リスク低下はASCVD、HF、CKDの既往歴ありの高齢糖尿病患者で大きかった(CKD既往歴なしに対するありの者でのMACEリスクのP=0.01、他は全てP<0.001)。

 以上を踏まえ、Htoo氏らは「高齢2型糖尿病患者において、エンパグリフロジンはHHFリスクの点でリラグルチドおよびシタグリプチンより有益な可能性があり、MACEリスクに関してはリラグルチドとの比較ではCVD既往歴がある患者のみ、シタグリプチンとの比較では全ての患者において有益な可能性が示唆された」と結論している。

(太田敦子)