非吸収性抗菌薬を消化管内に局所投与し、院内感染の主な原因である好気性グラム陰性桿菌や真菌の増殖を選択的に抑制する選択的消化管除菌(SDD)は、人工呼吸器による呼吸管理が必要な重症患者の人工呼吸器関連肺炎(VAP)やbacterial translocation(BT)による血流感染などを予防する方法の1つとして注目されている。オーストラリア・University of New South WalesのNaomi E. Hammond氏らは、SDDの有効性を評価したランダム化比較試験(RCT)のシステマチックレビューとメタ解析を実施。集中治療室(ICU)で人工呼吸器による呼吸管理を受けている患者に対するSDDは、院内死亡率を低下させたと、JAMA2022年10月26日オンライン版)で報告した。

SDDが薬剤耐性菌の発生を促す懸念も

 SDDの有効性に関しては、1984年にオランダのグループが人工呼吸管理を必要とするICU入室患者において、SDDによりVAPなどの発症率が低下したことを報告。これをきっかけにSDDの有効性が複数の研究で検討され、SDDによる院内死亡率やVAPの発症率の低下を支持するエビデンスの蓄積が進んだ。しかし、その一方で、SDDによる薬剤耐性菌の出現への懸念から、国際的なガイドラインではSDDの推奨に関しては消極的である。

 こうした中、人工呼吸管理を必要とする重症患者を対象にSDDの有効性について検討したRCTであるRGNOSISとSuDDICUの報告がそれぞれ2018年、2022年に発表された。Hammond氏らは今回、これらのRCTを含めた現時点のエビデンスを総括して評価するため、システマチックレビューとメタ解析を実施した。

 まず、Hammond氏らは、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)を用いて2022年9月12日までに発表された文献を検索し、ICUにおいて人工呼吸管理を必要とする成人患者を対象にSDDと標準治療またはプラセボ投与を比較検討したRCTを特定。このうち適格基準を満たしたRCT 32件(計2万4,389例)を解析した。

 各RCTの参加者数の中央値は133例(四分位範囲 81~366例)、年齢の中央値は54歳(同44~60歳)、女性の割合の中央値は33%(同25~38%)であった。主要評価項目は院内死亡率とし、その評価に必要なデータは32件中30件(計2万4,034例)から得られた。

VAPや菌血症などのリスクも低下

 プール解析の結果、標準治療群に対するSDD群における院内死亡のリスク比(RR)は0.91〔95%CI 0.82~0.99、I2=33.9%、確実性:中(moderate)〕と推定され、SDDが院内死亡率の低下に関連する事後確率は99.3%であった。

 また、サブグループ解析の結果、SDDに抗菌薬の静脈内投与を併用した群では死亡リスクの低下が認められたが(RR 0.84、95%CI 0.74~0.94)、SDD単独の群では死亡リスクの低下は認められなかった(同1.01、0.91~1.11)。

 その他、SDDは副次評価項目であるVAPのリスク低下(同0.44、0.36~0.54)、ICU入室後の菌血症発症のリスク低下(同0.68、0.57~0.81)に関連していたが、確実性はそれぞれ「極めて低」、「低」と判断された。また、SDDは人工呼吸管理の期間の短縮(平均差-0.73日、95%CI -1.32~-0.09日)、ICU入室期間の短縮(同-0.86日、-1.73~0日)に関連し、確実性はそれぞれ「中」、「低」と判断された。

薬剤耐性菌の増加は認められず、ただし「確実性は極めて低い」

 ICUでのSDDと薬剤耐性菌発生の関連に関しては、プール解析の実施に必要なデータが収集できなかった。ただし、クラスターRCTでは、培養検査において薬剤耐性菌の陽性率の上昇が報告されたものは3件中0件だった。また、患者レベルのデータを報告していた試験からは、プール解析に利用できるデータを収集できたが(推定RR 0.65、95%CI 0.46~0.92)、薬剤耐性菌の陽性率の上昇に関する確実性は「極めて低」と判断された。

 以上から、Hammond氏らは「ICUで人工呼吸器による呼吸管理を受けている患者において、SDDは標準治療やプラセボと比べて院内死亡率を低下させた」と結論。また、「SDDが薬剤耐性菌の陽性率の上昇に関連することを示すエビデンスはなかったが、SDDと薬剤耐性菌の発生の関連についてのエビデンスは確実性が極めて低かった」としている。

(岬りり子)