高所得国では高齢者の半数以上が複数の慢性疾患を有しており、公衆衛生上の大きな課題となっている。睡眠時間は個々の慢性疾患との関連が示されているが、高齢者の多疾患併存との関連は不明である。フランス・Université Paris CitéのSéverine Sabia氏らは、英国の前向きコホート研究Whitehall Ⅱのデータを用いて25年間の追跡調査を実施。中年期以降における5時間以下の短時間睡眠と死亡との関連は認められなかったものの、慢性疾患の初発および多疾患併存リスクを高める可能性があることをPLoS Med(19: e1004109)に報告した。
5時間以下の睡眠で多疾患併存リスクが30〜40%上昇
Sabia氏らは、Whitehall Ⅱ研究の登録データを用いて50歳、60歳、70歳時の睡眠時間と慢性疾患の初発および将来の多疾患併存、死亡への進展との関連を検討した。対象は50歳時の睡眠時間のデータを有し多疾患併存がない7,864人(女性32.5%)。
睡眠時間は1985〜2016年に6回測定されており、50歳、60歳、70歳に近い時点のデータを抽出した。多疾患併存は13の慢性疾患※のうち2つ以上の発症と定義し、2019年まで追跡した。
平均(±標準偏差)22.6年±7.5年の追跡期間中に、2,659人(33.8%)が多疾患併存を発症した。社会人口統計学的要因、健康行動および健康関連要因などの共変量を調整後の睡眠時間と多疾患併存リスクとの関連を検討した結果、50歳かつ睡眠時間が7時間台の者に対し、5時間以下の者では多疾患併存のリスクが有意に高かった〔ハザード比(HR)1.30、95%CI 1.12〜1.50、P<0.001〕。同様に60歳(同1.32、1.13〜1.55、P<0.001)、70歳(同1.40、1.16〜1.68、P<0.001)でも5時間以下の者はリスクが有意に高かった。
一方、50歳かつ睡眠時間が7時間台の者と9時間以上の者では多疾患併存のリスクに差はなかった(HR 1.39、95%CI 0.98〜1.96、P=0.067)。ただし60歳および70歳かつ睡眠時間が9時間以上の者では、多疾患併存のリスクが有意に高かった(60歳:同1.54、1.15〜2.06、P=0.003、70歳:同1.51、1.10〜2.08、P=0.010)。
5時間以下の睡眠は、慢性疾患発症から多疾患併存へのリスクが上昇
平均25.2年の追跡期間中に、50歳時に慢性疾患のない7,217人中4,446人が慢性疾患を発症し、うち2,297人が多疾患併存に進行、787人が死亡した。
睡眠時間が7時間の者に対して5時間以下の者では慢性疾患の初発リスクが20%上昇し(HR 1.20、95%CI 1.06〜1.35、P=0.003)、多疾患併存のリスクも上昇した(同1.21、1.03〜1.42、P=0.021)、ただし、死亡との関連は認められなかった(同0.97、0.55〜1.72、P=0.926)。
また、なんらかの慢性疾患を発症した3,702人において、発症後の睡眠時間と多疾患併存への進行、死亡への進展との関連を調べたところ、睡眠時間が7時間の者に対して5時間以下の者では多疾患併存リスクが20%上昇した(HR 1.20、95%CI 1.03〜1.40、P=0.018)。また、睡眠時間が9時間以上の者でも多疾患併存のリスクが上昇していた(同1.36、1.00〜1.86、P=0.051)。一方、死亡との一貫した関連は認められなかった。
20年以上にわたる前向き研究により、中年期および老年期の短時間睡眠は多疾患併存リスク上昇と関連していたが、死亡とは関連しないことが示された。また慢性疾患を発症した患者でも、将来の死亡とは関連していなかった。ただし、9時間以上の長時間時間と多疾患併存および疾患の進行や進展との関連については、症例数が乏しく明確なエビデンスを得られなかった。Sabia氏らは「中年期以降の慢性疾患予防策として、良好な睡眠衛生の促進を支持する結果が得られた」と結論している。
(宇佐美陽子)
※ 糖尿病、がん、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、肝疾患、うつ病、認知症、うつ病および認知症以外の精神障害、パーキンソン病、関節炎/関節リウマチ