がん患者にとって予後に関する情報は、治療⽅針や⽇常⽣活などにおけるさまざまな意思決定に影響を及ぼすため極めて重要である。がん患者や家族が知りたい生命予後についての情報に関しては国内外で研究が行われている一方で、機能予後の情報収集に関する研究はほとんどない。筑波⼤学医学医療系分野講師の濵野淳氏らは、がん患者を対象に予後について知りたい情報や関連する因子について意向調査を実施。その結果、生命予後に比べ機能予後について知りたいと答えた患者の割合が多く、より重視している可能性が示されたとAnn Palliat Med2022年10月24日オンライン版)に発表した。

がん患者132例を対象に、生命予後、機能予後について質問

 先行研究から、がん患者は亡くなる前に他⼈の負担になりたくないと考えており、人生の最後に望むのは「旅⾏に⾏く」「家族と過ごす」ことであると報告されている。それらの実現には、⽣命予後だけでなく「いつまで歩けるか」「いつまで⾷事が取れるか」といった機能予後が重要になる。しかし、がん患者や家族を対象とした機能予後情報に関する意識調査はほとんど⾏われていない。

 そこで濵野氏らは、今年(2022年)2⽉に国内のがん患者を対象に無記名のインターネットアンケートを実施、知りたいと思っている予後情報およびそれに関連する因子を調査した。有効回答は132例(平均年齢63.1±9.3歳)から得られ、内訳は男性67例(50.8%)、消化器がん患者43例(32.6%)、泌尿器がん患者23例(17.4%)、婦人科がん患者20例(15.2%)だった。

「会話予後を知りたい」が最多で47%

 アンケートでは以下の質問に対し、「とてもそう思う」から「全くそう思わない」までの6段階で回答してもらった。

① 私は「いつまで⽣きられるか」を知っておきたい(⽣命予後)

② 私は「いつまで⾃由に動けるか(旅⾏など)」を知っておきたい(運動予後)

③ 私は「いつまで本を読むなど複雑な思考ができるか」を知っておきたい(思考予後)

④ 私は「いつまでおいしく⾷事ができるか」を知っておきたい(⾷事予後)

⑤ 私は「いつまでちゃんと会話ができるか」を知っておきたい(会話予後)

 「とてもそう思う」「そう思う」の回答を合わせると、最も多かったのは会話予後の62例(46.9%)で、次いで⾷事予後が57例(43.1%)、運動予後が56例(42.4%)、思考予後が47例(35.6%)の順で、いずれも⽣命予後の35例(26.6%)を上回った(表1)。

表1. がん患者が知っておきたいと考えている予後情報

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 また、⾝近な者をがんで亡くした経験がある患者では、⽣命予後、運動予後、会話予後との関連が示された(表2)。

表2. がん患者が知っておきたい予後情報に関連する要因

fig02 Tsukuba.png

(表1、2とも筑波大学プレスリリースより)

 以上を踏まえ、濵野氏らは「がん患者は、いつまで⽇常⽣活や仕事ができるかを把握するために⽣命予後よりも機能予後を知りたいと考えており、⾝近にがんで亡くなった者がいる場合は、より予後情報を重視する可能性が示された」と結論。その上で「今後は、がん患者の⽣命予後だけでなく機能予後を予測する⽅法や、本⼈の知りたい程度に合わせた伝え⽅を検討する必要がある」と付言している。

(小野寺尊允)