米国肥満代謝外科学会(ASMBS)および国際肥満代謝外科連盟(IFSO)は、1991年の米国立衛生研究所(NIH)による重度肥満に対する減量手術のコンセンサスステートメント公開後に蓄積されたエビデンスを踏まえ、減量手術の新指針を31年ぶりに策定。Surg Obes Relat Dis2022年10月20日オンライン版)に発表した。新指針では、BMI 35以上(高度肥満)の成人には、肥満関連疾患の有無や重症度にかかわらず減量手術を推奨。BMI 30〜34.9で代謝性疾患がある成人や、適格な小児・青年では減量手術を検討すべきとしている。

1991年の基準は画一的で時代遅れに

 1991年のNIHステートメントでは減量手術の推奨をBMI 40以上またはBMI 35以上で高血圧や心臓病などの肥満関連疾患が1つ以上ある成人に限定しており、小児・青年に対しては推奨していなかった。

 しかし、この31年間に臨床的経験が蓄積され、ランダム化比較試験(RCT)やメタ解析を含む多くの研究により、肥満とその治療法に対する理解は大きく進展した。重度の肥満および合併症の治療法として減量手術の安全性と有効性、非外科的治療に対する死亡率の低下が長期成績において示されている。また、減量手術の費用効果の高さを示した研究もある。

 手術手技も進化し、現在では低侵襲かつ有効性が期待できるスリーブ状胃切除術とRoux-en-Y胃バイパス術(RYGB)という2つの腹腔鏡手術が導入され、減量手術の約9割を占めている。

BMI 35以上は合併症にかかわらず推奨、糖尿病合併例はBMI 30以上で推奨

 ASMBS/IFSOの新指針では、BMI 35以上の成人患者に対しては合併症の有無や重症度にかかわらず減量手術を強く推奨している。このような患者では、現行の非外科的介入によって実質的な減量と全般的健康度の改善を達成することは困難で、将来の合併症リスクやその有害な転帰を考慮すれば、現時点での合併症の有無にかかわらず手術のベネフィットは大きい。また、2型糖尿病合併肥満患者では減量手術による糖尿病の著明な改善・寛解が報告されており、BMI 30超の症例に対し減量手術を推奨している。

 一方、BMI 35未満では薬物療法による持続的な減量効果が認められることから、手術に先行して薬物療法の施行が推奨されていた。しかし、新指針では減量手術による肥満関連疾患の高い改善効果を考慮し、BMIが30~34.9で代謝性疾患があり、非外科的治療では実質的かつ長期の減量または合併症の改善が見込めない患者では手術を検討すべきとしている。

アジア人、小児・青年には異なる基準を適用

 ただし、BMIには民族や年齢、性、脂肪の蓄積部位が反映されていない、万人に一律に適用できる指標ではない。例えばアジア人における臨床的肥満はBMI 25超であり、新指針ではBMI値のみに基づくべきではないとしている。

 また年齢の上限はなく、高齢者でも減量手術のベネフィットを得られる可能性があれば、合併症とフレイルを慎重に評価した上で手術を考慮するとしている。

 小児・青年における肥満は精神面への影響、成人期の合併症や早期死亡リスク上昇にも関連している。新指針では「BMIが95パーセンタイルの120%を超え、かつ主要な合併症を有する」または「BMIが95パーセンタイルの140%を超える小児・青年」においては、集学的チームによる評価に基づき減量手術を検討すべきとしている。減量手術が思春期の発育や身長に影響を及ぼすことはなく、手術に際して成長曲線や骨年齢を考慮する必要はないという。また、症候性肥満や発達遅延、外傷歴も青年期の減量手術の禁忌とはならない。

合併症手術への橋渡しとしての減量手術

 肥満はさまざまな合併症に関連しているが、極度の肥満例では合併症に対する外科的介入が困難な場合も多い。しかし、減量手術の実施が橋渡しとなり関節形成術や腹壁ヘルニア修復などの特殊手術、臓器移植などが施行可能となることが示されている。また、減量手術による症状軽減に伴い関節形成術や心臓移植が不要となった症例の報告もある。

 さらに新指針では、BMI 60超の最重度肥満肝硬変心不全、がんなどの高リスク群、その他の主要な合併症における減量手術の安全性と転帰についても、多数のエビデンスを紹介しながら解説している。

 肥満はほとんどの臓器の疾患に関与する複雑な慢性疾患である。また重度肥満例では、初回の減量手術後も補助療法や再手術を含む長期管理を必要とする。減量手術の実施に際し、新指針では「最終判断は外科医が行うべきだが、周術期合併症リスクの低減と予後改善を目標とした修正可能な危険因子の管理には、集学的チームによる介入が有用である」と推奨している。

(小路浩史)