小児に対する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの有効性や安全性に関するデータの蓄積が進んだことなどを受け、日本小児科学会は11月2日、「生後6カ月~5歳未満の小児へのSARS-CoV-2ワクチン接種はメリット(発症予防)がデメリット(副反応など)を上回ると判断され、接種を『推奨する』」との見解を発表した。
小児患者の急増を受け、考え方を示す
日本小児科学会は、生後6カ月~5歳未満の小児に対しSARS-CoV-2ワクチンの接種を推奨する理由として、①小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)例の急増に伴い、以前少数だった重症例および死亡例が増加している、②成人と比べ小児の呼吸不全例は比較的まれだが、オミクロン株流行以降は小児に特有な疾患であるクループ症候群、熱性痙攣を合併する小児例が増加し、脳症、心筋炎などの重症例も報告されている、③生後6カ月~5歳未満児に対するSARS-CoV-2ワクチンの有効性は、オミクロン株BA.2流行期での発症予防効果は生後6カ月~23カ月児で75.8%、2~4歳児で71.8%と報告され、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待される―などを挙げている。
生後6カ月~5歳未満の健康な小児におけるSARS-CoV-2ワクチンの有効性および安全性に関し、海外でデータの集積が進んでいることも背景にあるという。
生後6カ月~5歳未満の小児に対するSARS-CoV-2ワクチンの安全性については、臨床試験で観察された有害事象はプラセボ群と同等で、その後の米国における調査でも重篤な副反応はまれと報告されているとしている。一方、接種後数日以内に胸痛、息切れ(呼吸困難)、動悸、むくみなどの心筋炎・心膜炎を疑う症状が現れた場合には、「すぐに医療機関を受診し、SARS-CoV-2ワクチンを接種したことを伝えるよう指導してほしい」と注意を促している。
小児の95%以上は軽症も、20歳未満の死亡が31例に増加
小児COVID-19患者の95%以上は軽症だが、クループ症候群、肺炎、痙攣、嘔吐・脱水などの中等症や、心不全を来しうる小児多系統炎症性症候群、脳症、心筋炎が報告されている。国内における10歳未満、10歳代のCOVID-19患者の死亡例の報告数は、オミクロン株流行前の昨年(2021年)末ではそれぞれ0例、3例だったが、オミクロン株流行後のわずか9カ月間でそれぞれ21例、10例が報告され、20歳未満の累積死亡者数は31例に増加している(今年9月20日時点)。
厚生労働省と国立感染症研究所が、関連学会(日本小児科学会、日本集中治療医学会、日本救急医学会)の協力を得て20歳未満の小児におけるSARS-CoV-2感染後の死亡例を調べた。その結果、今年1~8月に死亡した41例中29例が、実地調査可能かつ内因性死亡(外傷を除く疾病による死亡)と考えられた。このうち14例(48%)が5歳未満であり、日本小児科学会は「最新の国内小児疫学情報を十分理解しておくことも重要」と指摘している。
また、国内の小児SARS-CoV-2感染例の症状を流行株ごとに分類したところ、オミクロン株流行期におけるCOVID-19患者は発熱の頻度が高く、熱性痙攣、咽頭痛、嘔吐の報告数が多いことが確認されている他、2歳未満および基礎疾患のある小児例では重症化リスクが増大するとの報告もある。
対象年齢で異なる製剤や接種量、取り扱い時に注意
今年10月時点で、国内で生後6カ月~5歳未満の小児に承認されているSARS-CoV-2ワクチンはファイザー製のみ。同ワクチンに含有されるmRNA量は、成人用の10分の1であり、5~11歳未満用のワクチンと比べ10分の3である。いずれの対象年齢でも3回接種が必要とされ、使用に際しては「年齢によって製剤、接種量が異なる」ことから、「接種対象年齢により製剤の取り扱いが異なることに注意が必要」と呼びかけている。
SARS-CoV-2ワクチンの接種部位についても、乳児や筋肉量の少ない一部の幼児には「外側広筋への接種が推奨される」としている。また、集団接種を行う場合には、「個別接種に準じて接種前の問診と診察を丁寧に行い、定期接種ワクチンと同様の方法で実施するとともに、母子健康手帳への接種記録を行うことが望ましい」としている。さらに、「接種前、接種中、接種後にきめ細やかな対応が必要」とし、「同調圧力が加わらないような配慮が求められる」と付言している。
(小沼紀子)