アルツハイマー病(AD)とレビー⼩体病はいずれも認知症を引き起こす主要な神経変性疾患であり、これらが原因となる認知症は異なるケアを必要とするため早期の鑑別診断が重要だ。しかし、アルツハイマー型認知症とレビー⼩体型認知症(DLB)は臨床症状に多くの類似点があり、鑑別は容易ではない。筑波大学医学医療系教授の新井哲明氏らは、認知機能に関する課題への回答音声を収集・自動解析することでADとDLBの鑑別が支援できるモバイルアプリを開発。健康例と比較したところ、AD群では語彙力低下などの言語的特徴の変化が、DLB群では発話速度低下などの音響韻律的特徴における変化が顕著であることを見いだしたとAlzheimers Dement(2022; 14: e12364)に発表した(関連記事「会話で認知症を検知」)。
健康群、AD群、DLB群を高精度で分類
認知症を含む精神・神経疾患における発話⾳声の変化に関しては、⾔語的特徴と⾳響韻律的特徴の詳細かつ多⾯的な定量化を通じてさまざまな知⾒が報告されている。ADでは同じ話の繰り返しおよび語彙減少などの⾔語的特徴の変化や発話速度低下、⾮発話時間増加といった⾳響韻律的特徴の変化が知られている。DLBでも同様の研究が行われているものの、ADとDLBを直接比較した研究は少なく、発話⾳声の解析が鑑別⽀援に活⽤できるかは不明だった。
新井氏らは、開発したモバイルアプリを用いて、AD群(45例)、DLB群(27例)、健康群(49例)を対象に、①逆算、②引き算、③写真を言葉で説明する、④動物の名前をできるだけ多く挙げる-など認知機能検査に基づく⾳声課題に回答してもらい、回答⾳声を収集・解析した。3群の背景は、平均年齢がそれぞれ73.1歳、75.1歳、72.3歳、女性が44.4%、44.4%、63.3%、教育歴が13.1年、12.7年、13.1年だった。
検討の結果、AD群では語彙力や情報量などの減少という言語的特徴の変化が、DLB群では発話速度の低下、抑揚の減少、非発話時間の増加といった音響韻律的特徴の変化が見られた(図)。
図.言語的特徴(左上)、音響的特徴(右上)、韻律的特徴(左下、右下)
(Alzheimers Dement 2022; 14: e12364)
機械学習技術を⽤いて、これらの特徴から原因疾患を分類するモデルを構築したところ、回答⾳声データだけで3群を⾼い精度で分類でき 〔受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)0.87〕、ADとDLBが⾼精度に検出・鑑別可能であった。また、同モデルの出⼒と認知機能検査スコアとの相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。その結果、AD群の検出には記憶検査スコアが、DLB群の検出には実⾏機能・注意に関する検査スコアが、両者の鑑別には情報処理速度に関する検査スコアが強く相関していた(全てP<0.001)。
以上の結果を踏まえ、同氏らは「モバイルアプリを用いた発話⾳声の⾃動解析を通じて、ADとDLBが⾔語的・⾳響韻律的特徴において異なるプロファイルを持つこと、それが鑑別⽀援に応⽤可能であることを世界で初めて示した。今回の成果は簡便な鑑別診断⽀援ツールとして、原因疾患に応じた認知症の早期診断・早期介⼊の⼀助となることが期待できる」とし、今後は軽度認知障害段階の患者を対象に、より早期の認知症鑑別診断における有⽤性を検証するとしている。
(中原将隆)