薬剤耐性(AMR)が直接の原因となって死亡した人は、2019年に世界で127万人、AMR関連死は495万人と推計される(Lancet 2022; 399: 629-655)。国際連合は、このまま何も対策を取らなければ、AMR死亡者数は2050年には1,000万人に上ると指摘しており、その脅威は年々高まっている。日本製薬工業協会はAMR対策推進月間(11月)に当たり、同月8日にメディアセミナーを開催。出席した東邦大学微生物・感染症学講座教授の舘田一博氏は、抗菌薬の創薬促進・安定供給の重要性や抗菌薬の適正使用について訴えた。

じわじわと広がるサイレント・パンデミック

 AMRは数十年にわたり、ゆっくりと感染が広がることから、サイレント・パンデミックとして国際的な脅威となっている。米国では国策として抗菌薬の開発を促進しているのに対し、日本では収益確保の観点から、かつて世界標準の抗菌薬を開発していた製薬企業でさえ開発規模を縮小している(関連記事感染症薬・ワクチン開発に国内7学会が提言」)。また、一部の抗菌薬は海外からの輸入に依存しているケースもあり、供給不足となった場合、医療提供に甚大な影響が及ぶことが懸念される(関連記事「化学療法学会、抗菌薬の特定重要物資指定と安定供給で提言」)。

 舘田氏は「企業単体の取り組みでは難しい。行政・関連学会などさまざまなステークホルダーと協力し、研究開発を継続できる制度・仕組みづくりが必要だ」と指摘。製造販売承認取得報奨制度、定期定額購買制度、最低買取保証制度など、新薬承認後の市場参入を支援する「プル型インセンティブ」の導入を要望した。

抗菌薬適正使用支援加算の利用も

 また、舘田氏は一般市民への啓発・教育の必要性についても言及。「抗菌薬は必要な症例に対し、適切な用量で処方しなければならないが、感冒などに対し抗菌薬を処方されないことを不安に感じる患者もいる。要望されると出したくなるのが医者の心情だが、丁寧な説明を行い、理解してもらう取り組みが必要だ」提言。現在、診療報酬には小児抗菌薬適正使用支援加算や耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算なども設けられており、抗菌薬適正使用に向けた環境整備が進んでいるという。

 その上で、同氏は「2023年には日本が議長国として開催するG7広島サミットが予定されており、AMR対策でリーダーシップを執ることが期待される。国内でも議論を深めていけるよう、産学官一体となって発信を強化していきたい」とまとめた。

(植松玲奈)