愛媛県立中央病院消化器内科医長/愛媛大学病院炎症性腸疾患センターの北畑氏らは、日本人の潰瘍性大腸炎(UC)患者298例を対象に社会経済的地位とUCの臨床転帰(粘膜治癒)との関連を検証する横断研究を実施。全体では社会経済的地位と粘膜治癒に関連はなかったが、高齢者では高学歴が粘膜治癒および完全粘膜治癒と有意に関連していたなどの結果をBMJ Open Gastro2022; 9: e001000)に報告した。

学歴と収入で3群に分けて検討

 社会経済的地位の低さは多くの疾患で予後不良因子であり、炎症性腸疾患(IBD)においてはクローン病(CD)で関連が示されているものの、UCにおける知見は限定的かつ一貫性がなく、アジア人では未検討だった。

 北畑氏らは、2015~19年に愛媛大学病院および関連病院で治療を受けたUC患者387例を対象に、喫煙、飲酒、教育、世帯収入に関するアンケートを実施。完全回答が得られた298例(77%)のデータを解析対象とした。

 学歴は、低学歴(中学・高校卒、教育期間12年以下)、中等度学歴(短大・専門学校卒または4年制大学中退、同12~16年)、高学歴(4年制大学・大学院卒、同16年超)の3群に、世帯収入は、低収入(年収300万円未満)、中等度収入(同300万以上600万円未満)、高収入(同600万円以上)の3群に分類した。また、年齢中央値(50.8歳)に基づき若年群(51歳未満)と高齢群(51歳以上)に分類した。

 粘膜治癒の維持は、良好な臨床転帰(再発や手術、入院の減少、ステロイドの漸減)に関連し、実臨床における治療目標とされていることから評価項目とした。Mayo内視鏡スコア0~1点を粘膜治癒、同0点を完全粘膜治癒と定義。年齢、性、ステロイド使用、飲酒、喫煙、BMI、罹患期間、病型、教育、世帯収入を交絡因子とし、多変量ロジスティック回帰分析により社会経済的地位と粘膜治癒および完全粘膜治癒との関連を検討した。

高齢かつ高学歴のaORは粘膜治癒で3.27、完全粘膜治癒で3.19

 学歴の内訳は低学歴が50.0%、中等度学歴が21.1%、高学歴が28.9%だった。世帯収入の内訳は低収入が21.1%、中等度収入が46.6%、高収入が32.2%だった。粘膜治癒の達成率は62.4%で完全粘膜治癒は25.2%だった。

 多変量解析の結果、全体および若年群では、学歴と世帯収入のいずれも粘膜治癒および完全粘膜治癒に関連していなかった。高齢者においても世帯収入と粘膜治癒および完全粘膜治癒との間に関連はなかったものの、高学歴では粘膜治癒および完全粘膜治癒のいずれにも正の相関が示された〔粘膜治癒:調整オッズ比(aOR)3.27、95%CI 1.14~10.48、完全粘膜治癒:同3.19、1.13~9.44〕。

日本固有の事情で欧米の知見と相違も

 欧米の研究では、収入を含めた社会経済的地位の低さとIBDの臨床転帰不良との関連を示した知見が多い。今回の研究で世帯収入との関連が認められなかった要因について、北畑氏らは「指定難病であるIBDは所得にかかわらず標準治療を受けることができる」という日本独自の制度が背景にあるとしている。

 若年者で教育の影響が認められなかった点については「高齢者と比べて高等教育を受けている比率が高く、影響が減弱されたのではないか」と推測している。学歴が臨床転帰に影響を与える機序は明らかでないが、高学歴の患者ほど検査や医療へのアクセス、服薬アドヒアランスが高いことが示唆される。

 同氏らは「日本人高齢UC患者において、世帯収入は粘膜治癒、完全粘膜治癒と関連がなかったが、教育状況には独立した関連が認められた」と結論。その意義について「アジアにおけるUC患者の教育状況と臨床転帰との間に正の関連性を示した最初の研究」と、強調している。

(小路浩史)