米国立がん研究所(NCI)のKathleen A. Cronin氏らは、NCI、米国がん協会(ACS)、米疾病対策センター(CDC)、北米中央がん登録所協会(NAACCR)が米国におけるがんの発生状況に関する最新情報をまとめた年次報告書2022年版をCancer2022年10月27日オンライン版)に発表した。2015~19年のがん死亡率は男女とも低下傾向にあり(年間平均で男性2.3%、女性で1.9%の低下)、肺がんの死亡率が最も大きく低下していた。2022年版では罹患率および死亡率がともに上昇傾向にある膵がんについて特集している。

全がん罹患率は男性で横ばい、女性で微増

 2014~18年の全がん罹患率(10万人当たり)は457.5人で、女性の430.9人に比べて男性では497.4人と高かった。ただし、同期間の全がん罹患率の推移を見ると、男性では横ばい状態だったのに対し女性では年間平均0.2%上昇していた。

 2014~18年の罹患率の推移をがん種別に見ると、男性における罹患率の上位18種のうち3種で上昇(最も大幅な上昇は膵がんの年間平均1.1%)、前立腺がんを含む7種で横ばい、8種で低下(最も大幅な低下は肺がんの年間平均-2.6%)となっていた。

 同様に、女性における罹患率の上位18種では乳がんを含む7種で上昇(最も大幅な上昇は黒色腫の年間平均1.8%)、子宮がんを含む4種で横ばい、卵巣がんを含む7種で低下(最も大幅な低下は甲状腺がんの年間平均-2.9%)となっていた。

肺がん死亡率は男女とも5%前後低下

 2015~19年の全がん死亡率(10万人当たり)は152.4人で、女性の131.1人に比べて男性では181.4人と高かった。ただし、同期間で全がん死亡率は男女とも低下しており、平均年間変化率は男性で-2.3%、女性で-1.9%だった。

 2015~19年の死亡率の推移をがん種別に見ると、男性では上位19種のうち膵がんを含む3種で上昇(最も大幅な上昇は骨・関節がんの年間2.3%)、前立腺がんを含む5種で横ばい、11種で低下。女性では上位20種のうち2種(膵がん、子宮がん)で上昇、4種で横ばい、14種で低下となっていた。平均年間低下率が最も大きかったのは肺がん(男性-5.4%、女性-4.2%)および黒色腫(同-4.6%、-4.2%)だった。

膵がん死亡率微増も、膵神経内分泌がん・腺がんは生存率向上

 膵がんは、新規に診断されるがんに占める割合はわずか3%だが、がん死因の8%を占める。がん種別の罹患率では第10位だが死亡率では4位を占め、生存率の低さが現れている。

 男女とも、膵がんの罹患率は2001~18年で年間1%、死亡率は2001~19年で年間0.2%、それぞれ上昇した。ただし、罹患率および死亡率そのものは女性に比べて男性で約30%高かった。

 膵がんのサブタイプ別に見ると、2001~18年では膵腺がんと膵神経内分泌腫瘍の罹患率が上昇したのに対し、その他の膵がんの罹患率は低下した。膵腺がんと膵神経内分泌腫瘍の罹患率上昇の背景には、一般的に肥満者の増加や、画像検査の技術の向上、画像検査の普及が診断率の向上に寄与した可能性があるという。

 進行するまで自覚症状がほとんどない膵腺がんの生存率そのものは依然として低いものの、膵腺がんと膵神経内分泌腫瘍の生存率は上昇傾向にあった。2001~17年の1年相対生存率は膵腺がんで24.0%→36.7%、膵神経内分泌腫瘍で65.9%→84.2%、2001~13年の5年相対生存率は膵腺がんで4.4%→6.6%、膵神経内分泌腫瘍で43.4%→65.2%といずれも向上した。膵腺がんに対する集学的治療の進歩により生存率がわずかに向上したのに対し、膵神経内分泌腫瘍は2000年以降、外科治療、局所療法(アブレーション/塞栓術)、薬物治療の進歩に伴い、5年生存率が持続的に上昇しているとされる。

 Cronin氏らは「がん死亡率は全般的に低下傾向にあり、特に肺がん死亡率が大幅に低下した。これは喫煙率の継続的な低下に加え、低侵襲の外科治療放射線治療、免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする革新的治療の登場によるところが大きい」と結論。一部のがんの罹患率上昇については「危険因子やスクリーニング検査の受検状況、診断方法の変化を反映したもの」との見解を示している。

(太田敦子)