細菌性角膜炎は眼の外傷などが誘因となり細菌が角膜内に侵入することで発症し、角膜潰瘍を来すと片眼性失明に至る場合がある。局所治療には点眼薬や眼軟膏が使用されるが、病変での接触時間が極めて短く、投与量の5%程度の薬物しか病変にとどまらないとされる。インド・Dr Agarwal's Eye HospitalのLional Raj D氏らは、新たなドラッグデリバリーシステムとして開発された薬物貯蔵コンタクトレンズ(Drug-depository contactlens;DDCL)の有効性を、細菌性角膜炎患者を対象に非盲検ランダム化比較試験で検討。薬物と病変の接触時間を延長させることで細菌性角膜炎の治癒が早まったと、BMJ Open Ophthlmology2022; 7: e001093)に発表した。

治療用コンタクトレンズDDCLは従来の抗菌点眼薬と併用

 眼における薬物のバイオアベイラビリティの低下は生理学的および解剖学的要因に加え、涙液や角膜上皮透過性などの要因が影響する。DDCLは、デュアルベースカーブを備えた特異性の高いレンズを用いて角膜前腔に薬物を保持することで、角膜病変と薬物の接触時間を延長させるように設計された治療用コンタクトレンズである。

 対象は片眼にグレード2以上の細菌性角膜炎(平均浸潤および上皮欠損サイズ1mm以上)を有し、非病変眼は最良矯正視力6/60以上で、抗菌薬治療を受けていない18~64歳の40例。従来の抗菌点眼薬単独群(従来治療群)とDDCL+従来の抗菌点眼薬併用群(DDCL治療群)に1:1でランダムに割り付け、14日間追跡した。

 主要評価項目は14日後における細菌性角膜炎の重症度スコアのベースラインからの変化、副次評価項目は重症度スコアの改善期間、重症度および疼痛、視力スコアのベースラインからの変化とした。

治療5日で完全治癒

 解析対象は従来治療群18例、DDCL治療群17例。細菌性角膜炎の重症度スコア(平均±標準偏差)はベースライン時が従来治療群2.63±1.06mm、DDCL治療群2.66±0.75mmで有意差はなかったが(P=0.92)、治療12時間後には平均改善スコアがそれぞれ0.04mm、0.27mmでDDCL治療群の方が有意に改善した(P=0.02)。この傾向は14日後まで継続し、DDCL治療群では5日目に完全に治癒したが、従来治療群では14日間を要した。

 視力についてはDDCL治療群で1日目から改善が認められたが、従来治療群では3日目まで改善は見られなかった。したがって、治療開始から3日間はDDCLが推奨され、その後は治癒の進行状況に従って必要性を再評価するという。

疼痛は12時間後から改善、5日で消失

 さらに、前房内細胞数(前房反応)および角膜混濁は両群とも3日目までに有意に改善したが、DDCL治療群の方がより顕著に改善した。

 疼痛スコアはベースライン時は両群で同等だったが(P=0.52)、治療12時間後から改善し、改善度はDDCL治療群の方がより顕著であった(P=0.023)。この傾向は、両群ともに5日後に疼痛が消失するまで継続した。Raj氏らは「DDCLは、レンズが治療用包帯として機能するため上皮化が促進されることも利点の1つだ」とコメントしている。

 安全性については、薬物の局所への長期曝露にもかかわらず、DDCL治療群は眼表面毒性を発現することなく、両群とも有害事象は見られなかった。

 同氏らは「DDCLは角膜抗菌薬のアベイラビリティを高め、角膜病変と薬物の接触時間を延長し、角膜を保護することで角膜の治癒と疼痛軽減を早めることが示唆された。したがって、DDCLの使用により、抗菌薬レジメンが減少して、医療スタッフの治療負担が軽減し、患者の治療への耐性を改善して毒性を軽減する結果、治療パターンが変わる可能性がある」と結論。「今後、DDCL研究は潰瘍患者のより大きなコホートで実施されるべきであり、さらに、細菌性角膜炎よりも長い病変と薬物の接触時間を必要とする原虫や真菌による角膜炎における調査が必要である」と述べている。

(宇佐美陽子)