基礎研究や臨床試験により、幾つかの新規血糖降下薬が慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に応用できる可能性が示唆されている。カナダ・McGill UniversityのRicheek Pradhan氏らは、血糖降下薬のCOPD増悪への影響を評価するコホート研究を実施。結果をBMJ(2022; 379: e071380)に報告した。
3剤の各コホートでSU薬と増悪リスクを比較
検討には、英国の約2,000施設を受診した約6,000万人の患者が登録されたプライマリケアデータベースであるClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いた。対象はCOPDの既往歴があり、新たに新規血糖降下薬3種(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)またはスルホニル尿素(SU)薬のいずれかの使用を新たに開始した2型糖尿病患者。
第1コホートではGLP-1受容体作動薬群1,252例(平均年齢61.4歳、男性50.0%)とSU薬群1万4,259例(同66.7歳、55.3%)、第2コホートではDPP-4阻害薬群8,731例(同69.3歳、55.4%)とSU薬群1万8,204例(同69.4歳、56.9%)、第3コホートではSGLT2阻害薬群2,956例(同62.9歳、58.5%)とSU薬群1万841例(同69.3歳、56.3%)を比較した。
主要評価項目はCOPDの初回の重症増悪(COPDによる入院と定義)で、副次評価項目として中等症増悪(外来で急性COPDと診断され、当日に経口ステロイド薬と抗菌薬の双方が処方された場合と定義)などついて評価した。
GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬で重症増悪リスク低下
SU薬群に対し、GLP-1受容体作動薬群ではCOPDの重症増悪のリスクが30%低かった〔100人・年当たりのイベント数:SU薬群 5.0 vs. GLP-1受容体作動薬群 3.5、ハザード比(HR)0.70、95%CI 0.49~0.99〕。また、GLP-1受容体作動薬群ではCOPDの中等症増悪のリスクが37%低かった(同5.4 vs. 3.3、0.63、0.43~0.94)。
一方、SU薬群に対してDPP-4阻害薬群ではCOPDの重症増悪(100人・年当たりのイベント数:SU薬群 5.1 vs. DPP-4阻害薬群 4.6 、HR 0.91、95%CI 0.82~1.02)および中等症増悪(同4.5 vs 4.2、0.93、0.82~1.07)のリスクがわずかに低い傾向が見られたが有意差はなかった。
SU薬群に対してSGLT2阻害薬群ではCOPDの重症増悪のリスクが38%低かったが(100人・年当たりのイベント数:SU薬群 3.9 vs. SGLT2阻害薬群 2.4、HR 0.62、95%CI 0.48~0.81)が、中等症増悪(同4.3 vs 4.5、1.02、0.83~1.27)のリスク低減は認められなかった。
Pradhan氏らは「今回の知見は、2型糖尿病とCOPDを有する患者における治療選択肢を増やすもの」と結論。「GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬のCOPD治療選択肢としての可能性を評価するには、ランダム化比較試験をはじめとしたさらなる検討が求められる。2型糖尿病を非合併のCOPD患者に対する投与についても同様である」と付言している。
(菅野 守)