アスピリン服用患者における消化性潰瘍および消化管出血の予防戦略としてHelicobacter pyloriH. pylori)除菌が考えられており、複数の試験が行われているが一貫した結果は得られていない。米国消化器病学会のガイドラインでは、予防的低用量のアスピリン開始時にH. pylori検査の実施が推奨されているが、根拠に乏しい。英・University of NottinghamのChris Hawkey氏らは、H. pylori除菌がアスピリン関連消化管出血を防ぐか否かを検討することを目的に多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、H. pylori除菌はアスピリン関連消化性潰瘍による出血を防ぐものの、効果は長期的に持続しない可能性が示唆されたとLancet2022; 400: 1597‐1606)に発表した。

英・プライマリケア1,208施設・5,300例超を対象に実施

 Hawkey氏らがMEDLINEなどを検索したところ、これまでアスピリン関連消化管出血の一次(初発)予防におけるH. pylori除菌の効果に関するRCTは実施されておらず、プライマリケア施設で実施された研究もなかった。そこで、英国のプライマリケアセンター1,208施設で二重盲検プラセボ対照RCTのHelicobacter Eradication Aspirin Trial(HEAT)を実施した。

 解析対象は、2012年9月14日~17年11月22日に、アスピリン325mg/日以下×28日間を過去1年間に4回以上処方された60歳以上の患者3万166例のうち、H. pylori呼気検査が陽性だった5,352例(平均年齢±標準偏差73.6±6.9歳、男性72.8%)。積極的除菌群(2,677例)とプラセボ群(2,675例)に1:1でランダムに割り付け、積極的除菌群には経口ランソプラゾール30mg、クラリスロマイシン500mg、メトロニダゾール400mgを1日2回1週間投与した。

 主要評価項目は、消化性潰瘍またはその疑いによる消化管出血での入院または死亡までの期間。2020年6月30日または死亡まで追跡した。

試験開始2.5年間で除菌により消化管出血による入院または死亡が65%減

 2万6,668人・年(中央値5.0年)の追跡期間中に、臨床的に重大な消化管出血エピソードが141件発生。44例が初発エピソードで消化性潰瘍またはその疑いによる消化管出血と診断された。うち18例が積極的除菌群、26例がプラセボ群だった。積極的除菌群の306例、プラセボ群の351例が死亡した。

 追跡期間の前半2.5年間における主要評価項目の発生率は、プラセボ群(イベント17件、イベント発生率2.61/1,000人・年、95%CI 1.62〜4.19/1,000人・年)に対し積極的除菌群(同6件、0.92/1,000人・年、0.41〜2.04/1,000人・年)で有意に低かった〔ハザード比(HR)0.35、95%CI 0.14〜0.89、P=0.028〕。しかし、追跡期間の後半2.5年間では両群で有意差はなく(同1.31、0.55〜3.11、P=0.54)、積極的除菌群の優位性は消失した。

 治療に関連した可能性がある有害事象は5,307例で報告され、味覚障害が最も多かった。

 プライマリケアで過去1年間に低用量のアスピリンを数カ月間服用した高齢患者を対象とした大規模試験において、H. pylori除菌を確実に達成でき、H. pylori除菌は消化管出血による入院リスクの有意な低下と関連していた。しかし、この関連は時間の経過とともに消失した。Hawkey氏らは「H. pylori除菌が、胃酸分泌抑制、胃粘膜保護の代替または追加の手段として確立されれば、アスピリンを安全に処方する観点から治療の選択肢となりうる。しかし、時間の経過とともに効果が消失することについては、さらに研究が必要だ」と述べている。

(宇佐美陽子)