痤瘡(にきび)と皮膚常在微生物には密接な関連があると考えられているが、炎症性痤瘡の面皰(コメド)の内容物に含まれる微生物叢の全容は明らかでない。日本メナード化粧品、藤田医科大学、ファスマックの研究グループは、次世代シークエンサー(NGS)を用いて炎症性痤瘡患者のコメド内の微生物叢を16s rRNAおよびITS遺伝子配列解析で検討した。その結果、Cutibacterium属(C. acnesなど)が優勢であったが、他にも多種多様な皮膚常在微生物が数多く存在していることをClin Cosmet Investig Dermatol(2022; 15: 2003-2012)に報告した。

炎症性痤瘡のコメド内容物に潜む微生物は?

 痤瘡は皮膚の過剰分泌、毛包におけるケラチノサイトの異常増殖および分化、細菌の定着、宿主の炎症反応という4つの要因によって惹起される。これらのうち、細菌に関してはC. acnesが炎症性反応を誘発し、炎症性痤瘡につながると考えられている。しかし、リアルタイムPCR法を用いた既報から、コメド内容物にはStaphylococcus属、Malassezia属も含まれることが明らかになっている。しかしながら、コメド内容物および皮膚表面の微生物叢の全容を解析する検討はなかった。そこで研究グループは、微生物叢と痤瘡の関係を明らかにする目的で、炎症性痤瘡の顔面のコメド内容物と顔の皮膚表面検体の16s rRNAおよびITS遺伝子配列を次世代シークエンサーで網羅的に解析した。

痤瘡は皮膚常在微生物が過剰増殖する炎症性疾患

 対象は、未治療の痤瘡患者22例(男性10例、女性12例)。皮脂分泌の多い額・鼻・顎をTゾーン、皮脂分泌の少ない頰をUゾーンと定義し、炎症性痤瘡(丘疹または膿疱)のコメド内容物を採取、額(Tゾーン)と頬(Uゾーン)から皮膚表面検体を採取して微生物叢を解析した。

 その結果、コメド内容物と皮膚表面に存在する主な細菌属はCutibacterium属、Staphylococcus属、Corynebacterium属、Streptococcus属であった。皮膚表面ではStaphylococcus属が、コメド内容物ではCutibacterium属が優勢だった。両検体における主要な真菌はMalassezia属(M. restricta、次いでM. globosa)で、一部のサンプルからCandida parapsilosisAureobasidium pullulansCladophialophora boppiiが検出された。真菌叢に関してはコメド内容物と皮膚表面の間に有意な差はなかった。

 コメド内容物では皮膚表面に比べ微生物叢の多様性が有意に高く、コメド内容物の細菌微生物群では皮膚表面に比べ痤瘡に関連する酵素(リパーゼ、ホスファターゼ、ノイラミニダーゼ、エンドグリコセラミラーゼ、プロテアーゼ、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸リアーゼ)の産生など、より強い代謝活性を示した。

 また、額と頬の皮膚表面の微生物叢には有意差がなかった一方で、Tゾーンのコメド内容物におけるCutibacterium属がTゾーンの皮膚表面およびUゾーンのコメド内容物よりも多かったことから、痤瘡へのCutibacterium属の関与は皮脂量が多い部位でより顕著であることが示された。

 以前のリアルタイムPCRを用いた定量的検討では、健康人の皮膚微生物叢に性差が認められたが、今回は認められなかった。研究グループは、一般的に健康人では男性と比べ女性で皮脂量が少ないが、痤瘡のある男女では皮脂量が同程度であるためと考察。また、健康者と異なり痤瘡患者の皮膚表面上の優勢菌がStaphylococcus属である理由については、さらなる研究が必要としている。

 以上から、研究グループは「炎症性痤瘡のコメド内容物の微生物叢は、皮膚表面に比べ強い代謝活性を示すCutibacterium属が増加した状態にあることが示唆された。すなわち、痤瘡はC. acnesをはじめ、Malassezia属など皮膚常在微生物の過剰増殖が関与する炎症性疾患である。ただし、皮膚常在微生物は健康な皮膚にも存在することから、皮膚常在微生物だけが原因ではなく、宿主側の皮膚免疫不全が関与していると考えられる」と結論している。

編集部