スイス・ロシュは11月14日、アルツハイマー病(AD)に対する疾患修飾療法(DMT)の1つである抗アミロイドβ(Aβ)抗体gantenerumabの有効性および安全性を検討した2件の第Ⅲ試験の結果を公表。早期AD〔軽度認知障害(MCI)と軽度AD〕を対象に実施した両試験で、臨床症状の悪化抑制を検証した主要評価項目を達成できなかったと発表した。
MCIおよび軽度AD患者約2,000例を対象に検討
gantenerumabは完全ヒトモノクローナル免疫グロブリン(Ig)G1抗体(皮下注射製剤)で、オリゴマー、フィブリル、プラークを含むアミロイドβの凝集体に結合し、脳内の免疫細胞であるミクログリアの活性化を介してプラークを除去することで、Aβの蓄積抑制効果が期待されている。
今回結果が発表されたGRADUATEIおよびGRADUATEⅡは、MCIおよび軽度AD患者を対象にgantenerumabの有効性および安全性を27カ月間にわたり評価した第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験。30カ国で登録した1,965例をgantenerumab群またはプラセボ群に1:1にランダムに割り付け、2週間ごとに目標用量である510mgに達するまで漸増投与した。
主要評価項目は、投与116週時点における臨床的認知症重症度の判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes;CDR-SB、0~18点、高スコアほど不良)スコアのベースラインからの変化量。記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味、介護状況を含む6領域について、認知機能と日常生活能を評価した。副次評価項目は17項目設定され、Mini-Mental State Examination(MMSE)やAlzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale(ADAS-cog )などのさまざまな神経心理学的・機能的評価ツールを用いて疾患の重症度の変化、gantenerumabによる治療レベルの評価、有害事象の発現率などを検討した。
「Aβ除去レベルが想定より低い」
解析の結果、GRADUATEIおよびGRADUATEⅡにおけるCDR-SBスコアのベースラインからの変化量はプラセボ群と比べgantenerumab群ではそれぞれ-0.31(P=0.0954)、-0.19(P=0.2998)といずれも有意差は認められなかった。プラセボ群に対する相対的な臨床症状の悪化抑制率は8%、6%で、目標とした臨床症状の悪化を遅らせるという主要評価項目は達成できなかった。Aβの除去レベルについても想定より低かった。
抗Aβ抗体では、投与後に認められる副作用である脳内浮腫(ARIA-E)および脳内微小出血(ARIA-H)などのアミロイド関連画像異常(Amyloid-Related Imaging Abnormalities:ARIA)が比較的高頻度に報告され、治療上の懸念として指摘されている。ARIAの発現頻度は製剤によって異なるとされる。
今回のgantenerumabの2件の臨床試験を統合した解析では、gantenerumab群では浮腫または滲出液を伴うARIA-Eの発現率は25%だった。ロシュは「ほとんどが無症候性であり、投与中断に至った例は少数だった」としている。ヘモジデリン沈着を伴うARIA-H単独での発現率は、gantenerumab群とプラセボ群で同程度だった。
両試験の結果の詳細は、米・サンフランシスコで11月30日に開催されるアルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer's Disease;CTAD)で発表される予定。
aducanumabに続くADのDMTの第2弾は?
ADに対するDMTは アミロイドカスケード仮説に基づき根本治療を⽬指す治療法で、抗Aβ抗体の他に、アミロイドワクチン、アミロイド切断酵素であるγやβセクレターゼ阻害薬などがある。これらの候補薬については世界で巨額の開発費が投⼊されて臨床治験が進められたが、大半が開発中止に追い込まれている。
現時点で製品化に至ったのは、昨年(2021年)6月に米食品医薬品局(FDA)から承認を取得した抗Aβ抗体aducanumabのみ。同薬については、日本の厚生労働省の専門部会で承認の可否について継続審議となっている。
一方、aducanumabの開発企業であるエーザイと米バイオジェンが共同で開発を進めているlecanemabについて、両者は今年9月末に第Ⅲ相試験の結果を発表。CDR-SBスコアの投与18カ月時点におけるベースラインからの平均変化量はプラセボ群に比べlecanemab群で-0.45と、27%の有意な悪化抑制を示し(P=0.00005)、主要評価項目を達成したことを報告している。米国、日本、欧州で来年(2023年)中に承認を目指す方針を示している。
(小沼紀子)