老化細胞の蓄積は加齢に伴う炎症の主な原因であり、さまざまな加齢性疾患のリスクを高めるが、老化細胞の蓄積の分子的基盤および蓄積機序を標的とした抗加齢技術についてはほとんど知られていない。東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野の王德瑋氏らは、加齢とともに蓄積する老化細胞がPD-L1を不均一に発現していることを明らかにし、老齢マウスへの免疫チェックポイント(CP)阻害薬投与により老化に伴うさまざまな病態が改善するとの研究結果をNature(2022: 611; 358-364)に発表した。
転写因子の低活性やPD-L1蛋白質の分解不全が原因
がん細胞などの不良細胞は、免疫CP機構を利用して免疫系の監視を逃れている。王氏らは、加齢に伴う老化細胞の蓄積にも同じ機序が関与しているとの仮説を立てて検証。まず老化細胞における免疫CP関連分子の発現を解析した。その結果、老化細胞の一部(6~10%)がPD-L1を特異的に発現していることを確認した。
続いて、老化細胞マーカーであるp16を蛍光標識したマウスモデルを用い、老化細胞におけるPD-L1発現をin vivoで検討したところ、若齢マウスと比べて老齢マウスではさまざまな臓器においてPD-L1陽性老化細胞が有意に多く、老化に伴いPD-L1陽性老化細胞が選択的に蓄積することが明らかになった。
さらに、in vitroでPD-L1陽性老化細胞の制御機序を検討した結果、老化細胞におけるPD-L1発現亢進は、細胞死に関与する転写因子E2Fの低活性によるPD-L1遺伝子の転写促進と、プロテアソームによるPD-L1蛋白質の分解不全によるものと考えられた。
PD-L1陽性老化細胞は免疫系細胞に非感受性
次に、培養細胞系を用いて老化細胞が感受性を示す免疫系細胞を探索した結果、PD-L1陰性老化細胞はCD8陽性T細胞に対して強い感受性を示したが、PD-L1陽性老化細胞ではCD8陽性T細胞に対する感受性が強く抑制された。
老化細胞では、炎症や発がんの促進作用がある種々の蛋白質を分泌する細胞老化随伴分泌現象(SASP)が見られるが、PD-L1発現老化細胞では、SASPの存在下でもCD8陽性T細胞に対する感受性が抑制された。
また、p16陽性老化細胞を単離してシングルセルRNA-seq解析を行ったところ、PD-L1陽性の老化細胞は、PD-L1陰性老化細胞と比べ強い炎症性を示した。
老齢/NASHマウスへの抗PD-1抗体投与で有望な結果
老齢マウスおよび非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスに抗PD1-抗体を投与すると、さまざまな臓器におけるp16陽性老化細胞の割合や、p16陽性老化細胞内のPD-L1陽性細胞の割合が有意に低下した。さらに、抗PD-1抗体の投与は老齢マウスにおける握力の低下や肺胞の拡大、肝脂肪の蓄積を著明に改善した。NASHマウスでは、肝脂肪の蓄積や肝線維化の有意な改善に伴い肝機能の改善も認められた。
以上を踏まえ、王氏らは「PD-L1陽性老化細胞は炎症性の性質が強く、加齢に伴うPD-L1陽性老化細胞の蓄積は、老化細胞の全体的な増加よりも有害な影響を及ぼすと考えられる。したがって、抗PD-1抗体投与によるPD-L1陽性老化細胞の選択的な除去は、従来の老化細胞除去薬(senolytic drug)による治療よりも有望である」と期待を寄せている。
(小路浩史)