C型肝炎は、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場で経口薬による治癒が可能になったが、一部治療不成功例も存在する。今年(2022年)8月、ソホスブビル(SOF)/ベルパタスビル(VEL)配合剤(商品名エプクルーサ)が適応拡大となり、未治療または前治療歴のないC型慢性肝炎・C型代償性肝硬変患者にも投与できるようになった。千葉大学大学院消化器内科学教授の加藤直也氏は「C型肝炎であれば1種類の薬剤の単一レジメンで治療が可能になった」と、9月27日に東京都で開かれたメディアセミナー(主催:ギリアド・サイエンシズ)で述べた。
ウイルス排除で線維化した肝臓も改善
C型慢性肝炎では徐々に肝臓の線維化が進行する。線維化の程度はF0(ほぼ正常)〜F4(肝硬変)の5段階に分けられる。C型肝炎ウイルス(HCV)が存在する限り肝臓の線維化は進み、肝臓は硬くなる。硬いほど発がんリスクは高くなるが、F1(軟らかめ)でも0.5%/年、F4では6〜8%/年となる(Ann Intern Med 1999; 131: 174-181)。
慢性肝炎が命取りになることはほとんどないが、発がんおよび非代償性肝硬変、肝不全は命に関わる。肝がんによる死亡者は年間約3万人、肝硬変も1万人以上に上る。肝硬変が進むほど発がんリスクは高まる。そのような中、C型肝炎の治療は進化してきた。HCVは33年前(1989年)に発見されたが、初期の治療はインターフェロン(IFN)によるもので、副作用が多かった。
しかし、2014年にDAAが登場し、2015年にはC型肝炎の治療は経口薬を1日1回12週間飲むだけになった。加藤氏は「いずれのDAAも治験の結果は100%近くHCVの排除ができており、C型肝炎の治療はもはやアンメットニーズではなくなってきた」と述べた。
HCV排除が可能になり、肝臓は硬化する一方から軟らかく戻るようになった。線維化が1段階進むのに約10年かかるが、HCVが排除できれば約4年で1段階戻る。DAAによるHCV排除で、肝がん発生率は約4分の1まで低下したが、ウイルス排除だけで発がんを回避できるわけではない。
HCV感染を知りながら未治療の人は多数
加藤氏は「現在、日本には100万〜150万人のHCV感染者がいるといわれ、治療して治った患者約47万人は氷山の一角だ」と指摘した。HCV感染者のうち感染を自覚していない人は約30万人と推測される。また、一番問題となるのはHCV感染を知りながら治療を受けていない人で、約25万〜75万人とされる。
アンケートの結果、C型肝炎と診断されても通院しない理由として最も多かった回答は「症状がない」、次いで「医師に通院しなくていいと言われた」「医師に経過観察と言われた」「検査または治療の費用がかかる」などだった(肝胆膵 2015; 711: 1175-1183)。同氏は「無症状だからといって治療をしなくていいわけではない。医師は、HCV感染者には1日でも早く治療を受けてもらうよう勧めてほしい」と訴えた。
HCV感染者のほとんどが治療薬でウイルス排除できる時代になったが、不成功例が一部存在する。ウイルス変異の中でもNS5AのP32欠損例(P32はNS5A阻害薬の結合部位)は、全てのNS5A阻害薬に対して高度耐性を示す。しかし、SOF/VELは、DAA前治療不成功例でリバビリン(RBV)とともに用いた場合、97%で投与終了後12週時点のウイルス学的著効(SVR12)を達成(Hepatol Int 2018; 12: 356-367)。P32欠損でも5例中4例でウイルス排除に成功した。
パンフィブロティックでパンジェノタイプ
非代償性肝硬変のDAA治療では、肝臓で代謝されるプロテアーゼ阻害薬は禁忌とされているが、SOFは腎排泄型、VELは代謝されず便中に排泄されるため、SOF/VELは肝障害患者でも使用できる。C型非代償性肝硬変患者に対する同薬12週間投与により92%でSVR12を達成したと報告されている(J Castroenterol 2019; 54: 87-95)。
ウイルスが排除できると線維化だけでなく、肝機能も改善する。C型代償性肝硬変患者を対象とした国内第Ⅲ相試験では100%がSOF/VEL治療を完遂し、SVR12を達成(Hepatol Res 2022; 52: 833-840)。HCV感染者では慢性肝炎〜肝硬変、代償性でも非代償性でも全てDAA治療が可能になった。
SOF/VELは、パンフィブロティック(肝線維化の程度にかかわらない)かつパンジェノタイプ(ジェノタイプによらない)。耐性ウイルスができにくく(再治療でも有効性が期待できる)、プロテアーゼ阻害薬を含まず肝機能の影響を受けないため、肝機能障害による投与中止のリスクが低い。
現在、未治療のC型肝炎患者は専門外の医師が診療している場合が多く、DAAの使用法は複雑なため、治療を受けていないケースもある。SOF/VELでは、検査により線維化や肝機能を調べる必要もない。加藤氏は「C型肝炎であれば1種類の薬剤を1日1回1錠、12週間の単一レジメンで治療が可能になった」と強調した。
(慶野 永)