近年、世界中で気候変動が起こっており、その影響で洪水や山火事、猛暑などの異常気象イベント(extreme weather events;EWE)が多発し、関連する皮膚症状が問題となっている。米・Vanderbilt University Medical CenterのEva R. Parker氏らは、EWEに関連した皮膚症状についての包括的レビューの結果をJ Clim Chang Health(2022; 8: 100162)に発表。「EWEに関連する皮膚症状の改善には、脆弱な集団への影響に注意しながら臨床、研究、公共政策による包括的な介入アプローチが必要だ」と述べている。
地球温暖化に伴いEWEが増加
1880年代以降、地球上に温室効果ガスが蓄積し、これらのガスによる放射強制力が温暖化現象をもたらした。近年では、1880年代と比べて地表の温度が平均1.15℃上昇している。気候変動によりEWEが増加し、それによる被害も大きくなっている。
皮膚の状態は特に気候因子に左右されやすい。Parker氏らは、気候変動、EWE、皮膚疾患、公衆衛生などに関連したキーワード検索を行い、PubMedやScienceDirect、米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)のClimate Change and Human Health Literature Portalから科学的根拠に基づくソースを抽出。さらに報告書や論文、学会講演録、新聞記事、ファクトシートや各種ウェブサイトなど、入手困難な文献まで含めて調査した。
洪水による皮膚疾患の頻度は高い
地球温暖化による気候変動などを原因として大規模な洪水が増加している。洪水災害の最中やその後に、外傷性疾患、感染症、化学物質への曝露、栄養失調や精神障害が劇的に増加し、その結果として皮膚疾患が起こる。2010年のパキスタン洪水では70万件以上の皮膚疾患が報告され、2011年のタイ大洪水では調査対象者の44.6%で皮膚症状が認められた。主に細菌感染症や真菌感染症、寄生虫症、炎症性皮膚疾患、外傷性創傷などが報告されている。
山火事で皮膚がん、アトピー性皮膚炎が高リスク
山火事は温暖化や乾燥した気候、強風、燃料使用、発火物などを原因として起こる。2001〜04年と比べて2016〜19年には、114カ国で高リスクの山火事に曝露する日数が増加し、128カ国で曝露する人数が増えたと報告されており、世界で年間19万4,000人以上が山火事にさらされている(Lancet 2021; 397: 129-170)。山火事により大気汚染が発生し、煙中の微粒子は数千マイル先の大気にまで影響を及ぼす。
大気汚染物質は脂溶性のため、角質層から直接またはエクリン汗腺や濾胞口を介した吸収により皮膚中に侵入する。汚染物質による皮膚へのダメージには、皮膚細胞上に発現するリガンド活性化型転写因子aryl hydrocarbon receptor(AHR)への結合を介した機序が重要と考えられている。
山火事は皮膚がん、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患のリスクになりうる。山火事の煙成分には、発がん性物質である多環芳香族炭化水素や揮発性有機化合物が含まれ、消防士はメラノーマや非メラノーマ皮膚がんのリスクが高いとの報告もある(Occup Environ Med 2014; 71: 398-404)。また汚染物質を吸収すると、皮膚バリアや免疫系の機能不全および炎症性サイトカインのアップレギュレーションを来し、アトピー性皮膚炎の発症や悪化をもたらす可能性がある。
猛暑で重篤な皮膚疾患も
猛暑は多くの皮膚疾患の誘導や悪化をもたらすが、体温恒常性の調節不全により重篤な皮膚疾患を来す可能性がある。中でも熱性浮腫は皮膚血管拡張により起こり、ブドウ球菌の菌交代現象を伴う汗疹は今後さらに増加すると考えられている。また、猛暑はGrover病や毛囊炎、間擦疹などを引き起こし、重症化させることもある。さらに、慢性炎症性皮膚疾患の悪化や皮膚感染症リスクの増大にもつながる。
気候変動に対する脆弱性が高い集団のリスク
妊婦や高齢者、精神疾患患者、人種・民族的マイノリティー、低所得者や移民などの集団では、天候に関連した影響に対する脆弱性が高い。これらの集団では、EWEに関連する皮膚疾患のリスクも重症度も高くなる傾向にある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、世界で30億人超がこのような環境下にあり、気候変動に対する脆弱性が高いとされる。
以上から、Parker氏らは「EWEに関連する皮膚疾患のリスク低減には、臨床、研究、公共政策による包括的な介入アプローチが必要になる」と指摘。「EWEと皮膚疾患の関連を解明するには、空間的および時間的な大規模疫学研究が重要。EWEが皮膚疾患の発症や重症化に及ぼす影響については、公衆衛生や実臨床、研究、公共政策の分野で注視していくべき」と述べている。
(山田充康)