国内外の特定の地域において、水道水中のリチウム濃度が低い地域に比べ高い地域では自殺率が低いことが報告されている(関連記事『水道水リチウム自殺率に負の相関、全国調査でさらなる検討へ』)。東京大学大学院臨床神経精神医学講座准教授の安藤俊太郎氏らは、国内の自殺者と非自殺者における眼房水中のリチウム濃度を比較した結果、自殺者でより濃度が低かったと、Transl Psychiatry(2022; 12: 466)に報告した。
自殺者12例、非自殺者16例の眼房水中リチウム濃度を比較
リチウムは、双極性障害治療薬の炭酸リチウムとして用いられ、自殺予防に有効であるとされる。また近年のメタ解析では、飲料水中のリチウム濃度の高さと地域の自殺率に逆相関が示されている(Aust N Z Psychiatry 2021; 55: 139-152)。しかし、体内リチウム濃度を自殺者と非自殺者で比較し、自殺との関連について検討することは行われていない、と安藤氏ら。
そこで同氏らは、水晶体の表面などを洗う役割を持ち、死後変化の影響が少ない眼房水に含まれるリチウム濃度を測定し、非自殺者と比較した。対象者は、2018年3月〜21年6月に東京都監察医務院において検案または解剖が行われた29例。事故死や死後変化が進行した症例などは除外した。
自殺者群13例(眼房水不足により12例)と非自殺者(対照)群16例に分け、眼房水中リチウム濃度を比較した。主な背景は、平均年齢がそれぞれ40.4歳、61.4歳、女性が44.4%、55.6%、平均死後経過時間は20.6時間、49.8時間。なお、自殺者群の死因の内訳は縊死9例、急性薬物中毒死2例、酸素欠乏死1例、多発損傷1例だった。
微量リチウムでも自殺とリチウム低値が関連
共分散分析および混合効果モデルを用い、自殺者と非自殺者の眼房水中リチウム濃度を比較した。その結果、眼房水中リチウム濃度の平均値は、非自殺者の0.92μg/Lに対し自殺者では0.50μg/Lと低く、自殺による死亡とリチウム濃度低値との有意な関連が認められた〔F(1, 24)=8.57、P=0.007、効果サイズηp2=0.26〕。また、死後経過時間を考慮した解析でも、自殺と眼房水中リチウム濃度の有意な関連が示された。
以上から、安藤氏らは「非自殺者に比べ、自殺者では眼房水中リチウム濃度が低いことが示された。体内の微量リチウム濃度であっても、自殺とリチウム濃度低値との関連が示された」と結論。「今後は、自殺者において体内リチウム濃度が低下するメカニズムの解明が望まれる」と付言している。
(編集部)