虚血により下肢の安静時疼痛、潰瘍、壊死などが継続し、下肢切断のリスクが高い包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)患者の一部では、血管内治療(EVT)よりもバイパス術による血行再建の方が有効であることが示された。米・Boston Medical CenterのAlik Farber氏らは、国際ランダム化比較試験BEST-CLIでCLTI患者に対するEVTとバイパス術の効果を比較検討した結果を米国心臓協会学術集会(AHA 2022、11月5~7日)で報告した。詳細はN Engl J Med(2022年11月7日オンライン版)に同時掲載された。
単一セグメント大伏在静脈の有無で患者を分類
末梢動脈疾患(PAD)患者は世界で2億3,000万例超存在し、PADの最も重篤な状態であるCLTIは11%に認められる。CLTIの罹患率は、高齢化と糖尿病の増加により上昇している。適切な治療を受けないCLTIでは、25%が1年以内に下肢の大切断に至る。下肢切断率には人種および社会経済的な格差があり、AHAは下肢切断の低減および格差を解消するためにPAD National Action Planを主導している。
CLTIの治療では、足関節より近位レベルの切断(大切断)リスクを低下させるために血行再建を行う必要がある。血行再建術には外科的なバイパス術とEVTがあるが、いずれが至適な治療法かは明らかでない。Farber氏らは国際ランダム化比較試験BEST-CLIを実施し、バイパス術とEVTのいずれがCLTIに対する至適治療法かを検討した。
対象は2014年8月~19年10月に米国、カナダ、イタリア、フィンランド、ニュージーランドの150施設で登録したインフラ鼠径部PADによるCLTIを有する1,830例。手術に使用可能な単一セグメント大伏在静脈を有する者をコホート1に、代替のバイパス導管が必要な者をコホート2に割り付け、コホート1の患者では単一セグメント大伏在静脈によるバイパス術がEVTの効果を上回る、コホート2の患者ではEVTが代替導管(上腕静脈、小伏在静脈、複合血管、例凍結血管、人工導管)によるバイパス術の効果を上回るとの仮説を立てて検証した。
主要評価項目は主要下肢有害事象〔MALE:足首以上の下肢切断または初回の主要な再介入術(新規のバイパス術、グラフトの外科的interposition、外科的血栓摘出術、血栓溶解術)〕または全死亡の複合。安全性評価項目は主要心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、全死亡の複合)とした。
あり:バイパス術でMALE /全死亡リスクが32%低下
コホート1では使用可能な単一セグメント大伏在静脈を有する1,434例をバイパス術群(718例)とEVT群(716例)にランダムに割り付け、7.0年間追跡した。バイパス術群では計698件のバイパス術(大腿動脈-膝窩動脈307件、膝窩動脈-脛骨/足底動脈115件、大腿動脈-脛骨/足底動脈276件)が施行された。EVT群では計1,250件のEVT(浅大腿動脈487件、膝窩動脈382件、脛骨/足底動脈381件)が施行された。
中央値で2.7年の追跡期間中に主要評価項目(MALEまたは全死亡)イベントがバイパス群709例中302例(42.6%)、EVT群711例中408例(57.4%)で発生。EVT群に対し、バイパス群ではMALEまたは全死亡リスクが32%有意に低下がした〔ハザード比(HR)0.68、95%CI 0.59~0.79、P<0.001〕。
副次評価項目の1つである大切断はEVT群の106例(14.9%)に対し、バイパス群では74例(10.4%)とリスクが27%低かった(HR 0.73、95%CI 0.54 ~ 0.98、P=0.04)。全死亡に両群で差はなかった(37.6%vs. 33.0%、HR 0.98、95%CI 0.82~1.17、P=0.81)。
なし:有意差認められず
コホート2では使用可能な単一セグメント大伏在静脈がない396例をランダムにバイパス群(197例)とEVT群(199例)に割り付け、5.1年追跡した。
中央値で1.6年の追跡期間中に主要評価項目(MALEまたは全死亡)イベントがバイパス術群194例中83例(42.8%)、EVT群199例中95例(47.7%)で発生し、両群に有意差は認められなかった(HR 0.79、95%CI 0.58~1.06、P=0.12)。しかし、副次評価項目の1つである下肢への主要な再介入はEVT群の51例(25.6%)に対し、バイパス群では28例(14.4%)とリスクが53%有意に低かった(HR 0.47、95%CI 0.29 ~ 0.76、P=0.002)。
安全性に関しては、30日以内のMACE発生率は、コホート1のバイパス群が4.6%、EVT群が3.6%、30日超のMACE発生率はそれぞれ37.5%と43.2%で、いずれも両群に有意差はなく同等だった。コホート2でも同様の結果だった。
Farber氏は今回の結果を、単一セグメント大伏在静脈を有するCLTI患者では、EVTよりもバイパス術の方がMALEまたは全死亡リスクの低減〔相対リスク比(RRR)32%低下、術後2.7年時の絶対リスク比(ARR)10.3%低下、治療必要数(NNN)10〕、大切断の低減(同27%、3.3%、30)、主要な再介入の低減(同65%、13.9%、7)が認められた。単一セグメント大伏在静脈を有さない患者では、主要評価項目の低減に両術で有意差はなかった。また、周術期の死亡やMACEの低減に両術で差は見られず、追跡期間中の死亡やMACEも同様だったとまとめた。
以上を踏まえ、同氏は「CLTI患者に対するバイパス術とEVTによる血行再建はいずれも有効かつ安全である。ただし、単一セグメント大伏在静脈を有するCLTI患者では、MALEや全死亡のリスク低減にEVTよりもバイパス術の方が有効であり、単一セグメント大伏在静脈を有さないCLTI患者では両術に有意差はなかった」と結論。「下肢救済の候補となるCLTI患者では、手術のリスクと導管の確保が可能かどうかを評価する必要がある。下肢救済が適切なCLTI患者では、インフォームド・コンセントおよび共同意思決定と同時に、大伏在静脈を用いたバイパス術を第一選択肢として提供すべきだ。BEST-CLI試験の結果、EVTが全てのCLTI患者に対する第一選択肢ではないことが分かった。バイパス術とEVTは血行再建における補完的役割を有し、患者に至適な治療を提供するためは両術に関する専門知識を得る必要がある」と付言した。
(編集部)