医師同士の結婚が女性医師のフルタイム勤務の妨げになっていることが分かった。東京大学大学院公衆衛生学教室の宮脇敦士氏は、2005~15年の国勢調査のデータを基に結婚している20~50歳の医師を対象に、配偶者の職業と医師の働き方との関係を検討。その結果をJAMA Network Open2022年11月14日オンライン版)に報告した。

女性医師の69%が医師と結婚

 女性医師の増加に伴い、医師同士の結婚が注目されている。しかし、医師の結婚相手の職業と医師の働き方、フルタイム勤務率との関連に関する国レベルのデータはほとんどない。そこで宮脇氏は2005~15年の国勢調査のデータを基に、医師の配偶者の職業と医師の働き方との関係を検討した。

 2005~15年の国勢調査からランダム抽出した結婚している医師を対象にした働き方に関する質問「9月24日から30日までの1週間に仕事をしましたか」に対し、「主に仕事」と回答した人をフルタイム勤務と定義。配偶者の職業は自己申告した職業を日本標準職業分類に応じて分類した。回帰分析を用いて医師本人の年齢、配偶者の年齢、最年少の子供の年齢、子供の数、都市在住かどうか、都道府県、調査年を交絡因子として調整し、調整後のフルタイム勤務率を算出、フルタイム勤務と配偶者の職業(医師 vs. 非医師)との関連を分析した。

 分析対象は結婚している医師2万5,321人〔男性2万858人(82.4%、平均年齢40.8歳)、女性4,463人(17.6%、同37. 9歳)〕。

 医師同士のカップルは3,074組、結婚相手が医師の男性は15%(2万858人中3,074人)、女性は69%(4,463人中3,074人)だった。

配偶者が非医師でフルタイム勤務率高い

 男性医師ではほぼ全員が配偶者の職業にかかわらずフルタイム勤務を行っていた。その一方で、女性医師は配偶者の職業が医師である場合に比べ非医師の場合にフルタイム勤務率が高かった(68.1% vs. 76.3%、調整後比率 1.12、P<0.001、図1

図1. フルタイム勤務率

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 非医師の配偶者の職業を比較的高所得の職業(就業構造基本調査で平均年収が500万円以上の職業)に絞って比較した場合、女性医師におけるフルタイム勤務率の差は減少した(調整後比率 1.05、P =0.10)。このことから、医師カップルにおける女性医師のフルタイム勤務率の背景に、配偶者である男性医師の所得レベルの高さがあることが推測された。

 また、子供のいない女性医師では、配偶者の職業が医師である場合と非医師の場合でフルタイム勤務率に差は認められず(86.0% vs. 87.4%、P=0.52)、配偶者の職業と女性医師のフルタイム勤務率に関連はなかった(図2)。

図2. 女性医師のフルタイム勤務率

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(図1、2とも宮脇敦士氏提供)

 これにより配偶者が医師でない場合に比べ、配偶者が医師の場合に子育ての負担が女性医師により大きくかかっていることが示唆された。

 研究の結果、女性医師では医師と結婚する割合が高いことが示された。医師同士の結婚が、男性医師の働き方にはほとんど影響しない一方で、女性医師のフルタイム勤務を妨げる要因になっている可能性が示唆された。

 この結果について宮脇氏は「フルタイム勤務の医師の仕事にはオンコール、長時間勤務、当直を伴うことが多く、柔軟性に乏しい働き方であることが男性医師と結婚した女性医師のフルタイム勤務率の低下の背景にあるのではないか。女性が男性よりも子育てにおける役割を期待されている中で、配偶者が医師として働いている場合(男性も忙しいため)、女性がフルタイム勤務をやめるという選択をしているのではないかと考えられた」と説明した。

 研究の限界として、職業が自己申告、専門科が不明、個人の所得が不明、横断研究、逆の因果の可能性(フルタイム勤務を希望しない女性医師が医師と結婚しやすい可能性)が挙げられた。

 同氏は「今後も女性医師が増加し、医師カップルが増加する中で、医師のキャリアの継続、ひいては医療人材の確保のために、医療界全体で医師(女性だけでなく男性も)の柔軟な働き方について考えていく必要がある」と指摘している。

(編集部)