現行のガイドラインでは、心房細動(AF)の抗凝固療法においてワルファリンよりも直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を優先することが推奨されている。しかし、どのDOACを選択すべきかについてはデータが不十分であるため、明確な推奨は示されていない。こうした中、英・University College London School of PharmacyのWallis C.Y. Lau氏らは、AF患者52万7,226例のデータを解析してDOAC 4剤の有効性と安全性を比較。他のDOAC使用群と比べてアピキサバン使用群では消化管出血リスクが19~28%低く、虚血性脳卒中、全身性塞栓症、頭蓋内出血、全死亡の発生率は同程度であったとの結果をAnn Intern Med(2022; 175: 1515-1524)に発表した。

2010~19年の新規AF診断例を解析

 近年、AF患者の脳卒中などの予防を目的とした抗凝固療法においてDOACの使用が広がりつつある。しかし、複数のDOACを直接比較したデータは少ない。Lau氏らは今回、フランス、ドイツ、英国、米国の2億2,100万人を網羅する電子医療データベース5件を用いてDOAC 4剤(アピキサバン、ダビガトラン、エドキサバン、リバーロキサバン)の有効性と安全性を比較検討した。

 解析対象は、2010~19年に新たにAFと診断され、DOAC 4剤のいずれかを新規に処方された患者52万7,226例(アピキサバン28万1,320例、ダビガトラン6万1,008例、エドキサバン1万2,722例、リバーロキサバン17万2,176例)。Cox回帰モデルを用いて、データベースごとのDOAC間における虚血性脳卒中または全身性塞栓症、頭蓋内出血、消化管出血、全死亡のハザード比(HR)を推定し、ランダム効果モデルを用いて結果を統合した。

80歳以上、CKD合併例でも一貫した結果

 解析の結果、アピキサバン使用群では他のDOAC使用群に対し消化管出血のリスクが低かった(vs. ダビガトラン:HR 0.81、95%CI 0.70~0.94、vs. エドキサバン:同0.77、0.66~0.91、vs. リバーロキサバン:同0.72、0.66~0.79)。一方、虚血性脳卒中または全身性塞栓症、頭蓋内出血、全死亡のリスクにDOAC間で差はなかった。

 また、これらの結果は80歳以上に限定した解析でも一貫して認められた。さらに、リバーロキサバン使用群に対してアピキサバン使用群のうち標準用量群(HR 0.72、95%CI 0.64~0.82)、低用量群(同0.68、0.61~0.77)、慢性腎臓病(CKD)合併群(同0.68、0.59~0.77)でも消化管出血リスクの低下が認められた。

 以上から、Lau氏は「新規AF患者において、アピキサバンは他のDOACと比べて消化管出血の発生率が低く、脳卒中の発生率は同程度であったことから、より望ましい選択肢となる可能性が示唆された」と結論した上で、「この結果がランダム化比較試験によって裏付けられることを期待している」と付言している。

(岬りり子)