英・University of OxfordのWilliam G. Herrington氏らは、進行リスクのある慢性腎臓病(CKD)に対するSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの有効性および安全性を検討するため、国際二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)EMPA-KIDNEYを実施。その結果、プラセボと比べエンパグリフロジンは、CKD患者におけるCKDの進行や心血管死のリスクを28%有意に低下させたと、N Engl J Med(2022年11月4日オンライン版)に報告した。
非糖尿病やeGFR 30mL/分/1.73m2未満のCKD患者も対象
CKDに対するSGLT2阻害薬の効果を検討したRCTの中でも、非糖尿病の患者、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者、尿中アルブミン/クレアチニン比で測定した蛋白尿が少ない患者を対象に加えた研究データは限られている。そのため、CKDに対するエンパグリフロジンの効果は明らかでない。そこでHerrington氏らは、こうした患者を含むCKD患者に対するエンパグリフロジンの効果を検討する多施設RCTを実施した。
対象は、2019年2月〜22年4月に、8カ国・241施設で登録されたeGFRが20mL/分/1.73m2以上45mL/分/1.73m2未満、またはeGFRが45mL/分/1.73m2以上90mL/分/1.73m2未満かつ尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはmg、クレアチニンはgで測定)が200以上のCKD患者6,609例。糖尿病の有無は問わなかった。これらを、エンパグリフロジン1日1回10mgを15週間投与するエンパグリフロジン群(3,304例)とプラセボ群(3,305例)にランダムに割り付け、今年(2022年)7月まで追跡した。
主要評価項目は、腎臓病の進行(末期腎不全、eGFRが10mL/分/1.73m2未満、eGFRがベースラインから40%以上低下、腎臓病による死亡)または心血管死の複合とした。副次評価項目は、心不全による入院または心血管死の複合、全ての原因による入院、全死亡とした。
全ての原因による入院リスクも有意に低下
Intention-to-treat(ITT)解析の結果、中央値2.0年の追跡期間中、腎臓病の進行または心血管死は、プラセボ群の16.9%(558例)に対し、エンパグリフロジン群では13.1%(432例)と有意なリスク低下が認められた〔ハザード比(HR)0.72、95%CI 0.64~0.82、P<0.001〕。ベースライン時の糖尿病の有無別やeGFR別のサブグループ解析でも同様にリスクが有意に低かった。
全ての原因による入院率は、プラセボ群に比べエンパグリフロジン群で有意に低かった(HR 0.86、95%CI 0.78~0.95、P=0.003)。一方、心不全による入院または心血管死の複合(HR 0.84、95%CI 0.67~1.07、P=0.15)と全死亡(同0.87、0.70~1.08、P=0.21)については、両群で差がなかった。重篤な有害事象の発生率は両群で同等だった。
以上から、Herrington氏らは「進行リスクを有するCKD患者へのエンパグリフロジン投与は、プラセボ投与に比べ、腎臓病の進行または心血管死のリスクを低下させた」と結論。「糖尿病に罹患していない患者やeGFRが30mL/分/1.73m2未満の患者においても、一貫してエンパグリフロジンの有効性が示された。既存のエビデンスにさらなる知見が加わった」と付言している。
(今手麻衣)