甲状腺機能低下症などに用いられる甲状腺ホルモン製剤レボチロキシン。妊娠期の女性の使用による胎児や出生児の発達などへの影響については、あまり解明されていないという。中国・University of Hong KongのGrace M Ge氏らは、出産コホートを用いて両者の関連を検討、結果をBMC Med(2022; 20: 390)に報告した。
児のADHD、ASD発症を検討
妊婦が分泌する甲状腺ホルモンが胎児に移行し、特に脳の発達において重要な役割を担う。そのため、妊婦の甲状腺ホルモン低下症の発症は、胎児の神経発達に悪影響を及ぼすとされる。一方、妊婦の甲状腺ホルモン製剤使用が児の神経発達に及ぼす影響についてはあまり解明されていない、とGe氏ら。
そこで同氏らは、香港の全公立病院および診療所を統括する病院機構のデータを用いたコホート研究を実施。対象は2001年1月1日〜15年12月31日に出産・出生した母児40万1,207組。早産児および在胎不当過小(SGA)児を含め、在胎期間や出生児体重が不明の児は除外した。
児を、母親が妊娠中にレボチロキシンを使用していた2,125例(使用群)と、甲状腺機能が正常でレボチロキシン非使用の39万8,909例(対照群)に分けた。母親の出産時平均年齢は使用群が33.95歳、対照群が31.50歳。なお、妊娠前にレボチロキシンを使用し、妊娠中は使用を中止していた母親から生まれた173例は主要評価の対象外とした。
2020年12月31日まで追跡し、出生転帰を早産児、SGA児、神経発達転帰を児の注意欠陥・多動性障害(ADHD)および自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断とし、両群で比較した。
早産児リスクと関連示すも、ADHD・ASDリスクとの関連なし
検討の結果、早産児は使用群が256例(12.05%)、対照群が3万3,462例(8.39%)、SGA児はそれぞれ41例(1.93%)、6,787例(1.70%)、ADHDの発症は85例(4.00%)、1万5,152例(3.80%)、ASDの発症は65例(3.06%)、1万827例(2.71%)だった。
傾向スコア重み付けモデルにより、母親の出産時年齢、児の出生年、出生した医療機関、経産回数、出産前の母親の既往(糖尿病、妊娠糖尿病、てんかん、高血圧、精神状態)を調整した早産児およびSGA児のオッズ比(OR)を求めたところ、早産児がOR 1.22(95%CI 1.07〜1.39)、SGA児が同1.08(0.79〜1.48)と、早産児でのみ妊娠中の母親のレボチロキシン使用との有意な関連が認められた(P=0.0003)。妊娠中にレボチロキシン使用を中止していた母親から生まれた児についても検討した結果、ORは早産児が2.16(95%CI 1.09〜4.25)、SGA児が1.05(同0.29〜3.79)と、早産児でのみ有意な関連が確認された(P=0.03)。
同様に、対照群に対する使用群の神経発達転帰のハザード比(HR)を求めたところ、ADHDが1.10(95%CI 0.88〜1.37)、ASDが1.00(同0.78〜1.29)と、いずれも有意差は示されず、妊娠中にレボチロキシン使用を中止していた母親から生まれた児についても同様の結果だった(ADHD:HR 1.39、95%CI 0.50〜3.86、ASD:同0.60、0.23〜1.53)。
以上から、Ge氏らは「母親の妊娠中のレボチロキシン使用は、早産リスクの上昇と関連することが示唆されたものの、SGA、児のADHDおよびASDリスクとの関連は示されなかった」と結論した上で、「今回の解析では妊娠中のレボチロキシン使用が早産リスクを高める可能性は否定できないが、甲状腺疾患そのものの影響も考えられる」と付言。「いずれにしても、妊婦のレボチロキシン使用は母児双方のリスクベネフィットを十分に評価した上で検討する必要があることに変わりはない」との見解を示している。
(松浦庸夫)