米・Johns Hopkins UniversityのMike Powell氏らは、メトホルミンの有効性を検討する観察研究における残留交絡因子について検証した。その結果、2型糖尿病患者40万例超の後ろ向きコホート研究においては、メトホルミンによる入院日数および医療費の抑制効果を確認。しかし、50項目のnegative control outcome(メトホルミンとの直接的な関連が確立されていない身体的および精神的転帰)および前糖尿病患者8万例超の相補的コホートを用いて検証したところ、これらの効果は患者個人の健康状態に関連する残留交絡因子に起因することが判明したとJAMA Netw Open(2022; 5: e2241505)に発表した。

インスリンとの比較で入院日数および医療費の減少と有意な関連

 Powell氏らはまず、2018~19年のMedicare Advantage受給者の請求データベースから成人2型糖尿病患者40万4,458例(平均年齢74.5歳、女性52.7%)を抽出し解析に組み入れた。主要評価項目は2019年の1年間における入院日数および医療費総額(処方箋薬の薬剤費を除く)とし、メトホルミン使用群(33万1,085例)とインスリン使用群(7万3,373例)で比較した。

 逆確率重み付け法により両群の背景因子(性、年齢、居住地域、入院日数、定期外来受診、インフルエンザワクチン接種、院内死亡、糖尿病合併症の重症度)を調整後の解析において、メトホルミン使用群で入院日数〔オッズ比(OR)0.60、95%CI 0.58~0.62、P<10-231〕、医療費(同0.57、0.55~0.60、P<10-201)の減少との有意な関連が認められた。

一般的な観察研究は交絡因子の検討が不十分

 次に、さまざまな身体領域に及ぶ50項目のnegative control outcome(爪白癬、腰痛などの転帰)と前糖尿病患者コホート8万1,791例(メトホルミン使用群3,086例、非使用群7万8,705例)を用いて検証した。

 その結果、2型糖尿病患者コホートではメトホルミン使用群で多くの転帰の発生率低下(log OR<0)が認められ、前述の結果には多くの残留交絡因子が影響していた可能性が示唆された。

 逆に、前糖尿病患者コホートではメトホルミン使用群で多くのアウトカムの発生率上昇(log OR>0)が認められた。

 以上の結果から、Powell氏らは「メトホルミンの観察研究で一般に用いられる研究デザインは残留交絡因子の検討が不十分であり、観察された有益な効果はメトホルミン自体ではなく患者個人の健康状態に関連する残留交絡因子に起因している可能性がある」と結論。「不完全なデザインに基づく観察研究の結果を過大評価することは、研究費・医療費の無駄遣いにつながるだけでなく、試験参加者や患者の健康を不要なリスクにさらす可能性がある」と注意を促している。

(太田敦子)