英・Compass Pathfinder社のGuy M. Goodwin氏らは、幻覚性キノコの一種マジックマッシュルーム(和名ヒカゲシビレタケ)に含まれる幻覚成分であるpsilocybinの25mg単回投与により、治療抵抗性うつ病患者の重症度スコアを有意に改善したとする第Ⅱ相二重盲検並行群間ランダム化比較試験の結果をN Engl J Med2022; 387: 1637-1648)に発表した。ただし、自殺念慮の悪化例も認められたことから、今後の臨床試験においては注意が必要という。

10カ国22施設で233例を登録

 Psilocybinは日本では麻薬及び向精神薬取締法の規制対象だが、2018年に米食品医薬品局(FDA)が臨床試験(第Ⅱb相)の開始を承認し、Breakthrough Therapy(画期的治療薬)に指定されている。

 今回の試験では、10カ国(欧州8カ国、カナダ、米国)の22施設で治療抵抗性うつ病と診断された成人の外来患者を登録。抗うつ薬やその他の中枢神経系に作用する薬物を漸減・中止し、セラピストによる心理教育を行う3~6週間のrun-in期間後に、233例(平均年齢39.8歳、女性52%)をpsilocybin 25mg群(79例)、10mg群(75例)、1mg群(対照群、79例)に1:1:1でランダムに割り付けて単回投与し12週間追跡した。

 主要評価項目は、Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS)合計スコア(範囲0~60点、高スコアほど重症)の投与後3週時点におけるベースライン(投与前日)からの変化量とした。副次評価項目は、3週時点の奏効(MADRS合計スコアのベースラインから50%以上のMADRS合計スコア改善)および寛解(MADRS合計スコア10点以下)、持続的奏効(3週時点の奏効が12週時点まで持続)とした。

25mgで奏効率37%、10mgでは有意な改善なし

 解析の結果、ベースラインのMADRS合計スコア平均値は25mg群で31.9点、10mg群で33.0点、1mg群で32.7点だった。

 投与後3週時点におけるMADRS合計スコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、25mg群で-12.0点、10mg群で-7.9点、1mg群で-5.4点だった。1mg群と比べて、25mg群では有意なスコア改善が認められたが(最小二乗平均差-6.6、95%CI -10.2~-2.9、P<0.001)、10mg群では有意差がなかった(同-2.5、-6.2~1.2、P=0.18)。

 25mg群は、3週時点の奏効率(18% vs. 37%、オッズ比2.9、95%CI 1.2~6.6)、寛解率(8% vs. 29%、同4.8、1.8~12.8)といずれも差が認められた。しかし、12週時点での持続的奏効率で有意差は示されなかった(10% vs. 20%、同2.2、0.9~5.4)で有意差は示されなかった。

 Goodwin氏らは「今回の試験対象において、psilocybinは第三~第五選択薬として用いられていた。25mg群の奏効率37%は、大うつ病に対する第一選択薬(エスシタロプラム、セルトラリン、ベンラファキシンなど)の大規模試験で報告されている奏効率より低いものの、第二選択以降の治療薬よりは高い」と述べている。

最多の有害事象は頭痛と悪心、自殺傾向に要注意

 有害事象の発現率は25mg群で84%、10mg群で75%、1mg群で72%だった。25mg群において投与日に最も多く見られたのは頭痛(24%)で、次いで悪心(22%)、めまいおよび疲労(各6%)の順だった。

 自殺念慮および自傷の発現率は、1mg群に比べて25mg群および10mg群で高かった。自殺念慮はベースラインで25mg群の21例(27%)、10mg群の27例(36%)、1mg群の19例(24%)に認められた。投与後3週までに自殺念慮の悪化を示した割合はそれぞれ11例(14%)、13例(17%)、7例(9%)に上り、試験前に自殺行動または自傷の既往歴があった25mg群の3例で3週以降に自殺行動が認められた。

 以上の治験を踏まえ、Goodwin氏らは「治療抵抗性うつ病の成人患者に対するpsilocybin 25mg単回投与は、投与後3週時点の重症度スコアを有意に改善した」と結論。ただし、「投与後に自殺念慮の悪化を示した症例が認められたことから、今後のうつ病に対するpsilocybinの臨床試験では注意する必要がある」と付言している。

(太田敦子)