世界では危険な音量での音楽聴取により難聴発症のリスクにさらされている若者が10億人超に上ることが明らかになった。米・Medical University of South CarolinaのLauren K. Dillard氏らはシステマチックレビューとメタ解析を実施し、世界的に12~34歳の若者におけるヘッドホン、イヤホンなどの使用やコンサート会場などの娯楽施設での危険な音量による音楽聴取頻度を検討。難聴を発症するリスクにある若者は10億人との結果をBMJ Global Heal(2022; 7: e010501)に報告した。

20カ国の12~34歳1万9 ,046人を解析

 世界保健機関(WHO)は、世界の難聴者は4億3,000万人以上に上ると推計している。規制が十分でない、スマートホン、ヘッドホン、イヤホンなどの個人聴取装置の使用やコンサートなどでの音楽聴取により、若者の耳は特に危険な音量にさらされている。これまでの研究で個人聴取装置ユーザーは音量を105dB以上に設定する場合が多く、娯楽施設での音量の範囲は104~112dBと、極めて短時間であっても許容レベル(成人80dB、小児75dB)を超えている。そこでDillard氏らはシステマチックレビューとメタ解析を行い、全世界で個人聴取装置の使用または大音量の娯楽施設における危険な音量での音楽聴取による難聴リスクのある若者の人数を推定した。

 2000~21年に3つのデータベースを検索、20カ国の12~34歳の若者1万9,046人の記録35件(個人聴取装置の使用17件8,987人、大音量の娯楽施設18件1万59人)・研究33件を抽出。個人聴取装置の使用または大音量の娯楽施設参加による危険な音量への曝露率をランダム効果モデルまたはシステマチックレビューを基に推定し、2022年の12~34歳の世界人口予測値と合わせて世界の難聴リスクがある若者の人数を推定した。

難聴リスクの若者は6億7,000万~13億5,000万人

 記録17件の解析から、プールされた個人聴取装置の使用による危険な音量への曝露率は23.81%(95%CI 18.99~29.42%)と推定された。一方、18件の記録からランダム効果モデルを用いて推定した、大音量の娯楽施設参加による危険な音量への曝露率は確実性が低かった(P>0.50)ことから、全ての研究に適合する二次元モデルを用いてプールされた曝露率を48.20%と推定した。

 個人聴取装置の使用による危険な音量への曝露率(23.81%)、大音量の娯楽施設参加による危険な音量への曝露率(48.20%)、2022年の12~34歳の世界人口(28億人)を合わせると、危険な音量への自発的な曝露により難聴発症リスクを有する若者は世界で6億7,000万~13億5,000万人に上ると推計された。

 Dillard氏らは研究の限界として、研究デザインの多様性、標準化された方法論の欠如を挙げた。また、推定値に影響を及ぼす可能性がある人口統計情報や、一部の国/地域におけるsafe listening(音楽を安全に聴く)規制の最近の変更も考慮されていなかった。同氏は「限界はあるものの、今回の知見は政府、業界、市民が一体となったsafe listeningの実践による世界的な難聴予防が喫緊の課題であること示唆している」と結論している。

(編集部)