米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのTori L. Cowger氏らは、ボストン大都市圏の公立学校の生徒29万4,084人と教職員4万6,530人を対象に、マスク着用義務の解除が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症に及ぼす影響を検討した。その結果、マスク着用義務の解除後15週間では、解除前に比べてCOVID-19の発症が生徒・教職員1,000人当たり44.9人増加し、学校でのマスク着用が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染抑制に有効であることが明らかになったとN Engl J Med2022年11月9日オンライン版)に報告した。

学区ごとのマスク着用義務の解除時期のずれに注目

 SARS-CoV-2によるパンデミックは、教職員不足、学級閉鎖、登校禁止など学校環境に大きな影響をもたらし、教育機会の不平等をより深刻化させた。

 2022年2月、米・マサチューセッツ州の初等中等教育省(DESE)は公立学校における州全体のマスク着用義務を取りやめ、同州の多くの学区では数週間以内にマスク着用義務が解除された。そのうちボストン地区とチェルシー地区の2学区は、2022年6月までマスク着用義務を継続した。

 そこでCowger氏らは、学区ごとのマスク着用義務の解除時期のずれに注目。マスク着用義務の有無が学校でのCOVID-19発症に及ぼした影響を検討した。

 対象は、ボストン大都市圏の72学区の生徒29万4,084人と教職員4万6,530人。COVID-19に関するデータの信頼性が低い、あるいは欠損している学区は除外した。研究期間は2021年度の暦週40週とし、2022年6月15日に終了した。

 差分分析を用いて、マスク着用義務を解除した学区とマスク着用義務を継続した学区における生徒と教職員のCOVID-19発症率を比較した。また、各学区の特徴も比較した。

マスク着用は対面授業の機会損失も抑制

 解析の結果、州全体のマスク着用義務が解除される前のCOVID-19の発症率は、学区間で同等だった。

 州全体のマスク着用義務が解除された後の15週間で、マスク着用義務の解除によりCOVID-19が生徒と教職員1,000人当たり44.9人(95%CI 32.6〜57.1)増加していた。これは1万1,901人(95%CI 8,651~1万5,151人)と推計され、その間に発症した全学区のCOVID-19症例の29.4%(同21.4~37.5%)に相当する。

 マスク着用義務を継続した学区の特徴は、マスク着用義務を早期に解除した学区と比べ、校舎が古くて状態が悪く、1クラス当たりの生徒数が多い傾向にあった。また、低所得家庭の生徒や障害のある生徒、英語を母国語としない生徒の割合が多く、黒人やラテン系の生徒や教職員の割合も多かった。

 以上から、Cowger氏は「ボストン大都市圏の学区におけるマスク着用義務の解除は、州全体のマスク政策解除後15週間で、生徒・教職員1,000人当たり44.9人のCOVID-19の増加と関連していた。マスクの着用は、学校におけるSARS-CoV-2感染や対面授業の機会損失を抑制するのに重要であることが裏付けられた」と結論。また、「低所得者や黒人、ラテン系、先住民のコミュニティーがある学区では、教室に生徒が密集しているケースや換気設備が整っていないケースが多く、感染リスクが高いにもかかわらず、マスク着用の継続によりCOVID-19が抑制された」と指摘した上で、「全ての人がマスクを着用するというユニバーサル・マスキングは、教育上の不平等を是正する上で特に有用であると考えられる」と述べている。

(今手麻衣)