新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が腸内細菌叢に及ぼす影響については複数の報告があるが、重症COVID-19患者の呼吸不全および死亡との関連は不明だった。米・University of ChicagoのMatthew R. Stutz氏らは、腸内細菌叢の構成と代謝産物の変化が重症COVID-19患者の死亡率に及ぼす影響について前向き観察研究により検討。結果をNat Commun2022; 13: 6615)に報告した。

プロテオバクテリアの増加が死亡と関連

 Stutz氏らは、2020年9月~21年5月にUniversity of Chicago Medical Centerの集中治療室(ICU)に入室した重症COVID-19患者(呼吸不全もしくはショックを呈する患者)71例を前向きに登録し、入室72時間以内に糞便検体を採取。ショットガンメタゲノム解析により糞便微生物叢の構成を特定し、液体およびガスクロマトグラフィー/質量分析などを用いたメタボロミクス解析により微生物由来の代謝物を定量化し、死亡との関連を検討した。

 71例中32例が死亡し、死亡群と生存群で人種、性、糖尿病、年齢、BMI、高血圧、慢性腎疾患、抗菌薬治療、COVID-19関連治療に有意差は認められなかった。

 UMAP法による微生物構成の解析の結果、生存群の糞便と比べて死亡群の糞便ではプロテオバクテリアが有意に多かった(P=0.008)。メタゲノミクス分類データを用いたLEfSe解析の結果、糞便微生物叢におけるバクテロイデス科およびラクノスピラ科に属する偏性嫌気性菌の増加と生存、エンテロバクター科の細菌の増加と死亡との間に関連が認められた。また、プロテオバクテリアの比率上昇は死亡率上昇と有意に関連していた(P=0.035)。

微生物由来の代謝物による死亡予測モデルを開発

 メタボロミクス解析の結果、糞便中の二次胆汁酸、インドール-3-カルボキシアルデヒド、デスアミノチロシン(DAT)濃度と生存との間に関連が認められた。

 デオキシコール酸、リトコール酸、イソデオキシコール酸、DATは、いずれも生存群で有意に多かった(順にP=0.015、P=0.021、P=0.048、P=0.046)。これら4種の物質はいずれも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染における免疫調節と抗ウイルス作用に関連していると考えられることから、これらを組み合わせ、それぞれの濃度が閾値より高い場合を0点(微生物叢良好)、低い場合を1点(微生物叢不良)とする微生物代謝物プロファイル(MMP)を作成した。

 受信者動作特性(ROC)解析による死亡率の検討では、MMPの閾値2.5で曲線下面積(AUC)0.744(CI 0.628~0.860)、陰性的中率0.67、陽性的中率0.75が得られた。また、Kaplan-Meier法による生存曲線から、死亡率は低MMP群(0~1点)では33.5%だったのに対し、高MMP群(2~4点)では89.3%と推定された()。

図. MMP別に見た生存曲線

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Nat Commun 2022; 13: 6615)

 Cox比例ハザードモデルによるMMP高値群の死亡ハザード比(HR)は1.65(95%CI 1.18~2.31、P=0.003)だった。また、MMP高値は気管挿管リスクとも関連していた(HR 1.11、95%CI 1.02~1.20、P=0.025)。

 Stutz氏らは「糞便微生物叢の構成と微生物叢由来の代謝物により、重症COVID-19患者の呼吸機能と死亡を予測可能であることが示された」と結論づけ、「臨床転帰の改善に関連した代謝物の同定により、微生物叢の操作・強化を用いた治療介入が可能になるかもしれない」と付言している。

(小路浩史)