前立腺がん(CRPC)は世界的に増加傾向にあり、国内でも男性における新規罹患者数が最も多いがん種である。術後の再発病変に対してはホルモン療法を行うが、ホルモン療法(去勢)抵抗性かつ多発転移を伴う場合は有効な治療法が限られる。一方、CRPCの細胞表面に高発現する前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、去勢抵抗性CRPC(mCRPC)でも高発現していることが多く、全身に多発転移を認める場合でも治療標的とすることが期待できる。大阪大学大学院核医学の渡部直史氏らは、PSMAを標的とする新たなα線治療に用いるアスタチン標識PSMAリガンド(211At-PSMA5)の開発に成功したとEur J Nucl Med Mol Imaging2022年11月8日オンライン版)に発表。難治性CRPCに対する医師主導臨床試験開始に向け、準備に着手したという(関連記事「PSMA標的療法でmCRPCのOS・rPFS延長」)。

重篤な副作用はまれで専用病室への入室が不要

 近年、核医学の領域においてもがんの診断から治療までを一貫して実施する医療技術セラノスティクスが注目され、PSMAはPETを用いたセラノスティクスの有望な標的とされている。これまで大阪大学では、ドイツ・デュッセルドルフ大学病院核医学科診断部⾧/教授のFrederik Giesel氏らとの共同研究により、PSMAを標的としたPET画像診断の臨床研究を行ってきた。

 多発転移を伴うmCRPC患者には化学療法などが施行されるが、副作用が少なくない。一方、核医学治療で重篤な副作用を認めることはまれであり、飛程が短いα線を用いた治療では専用病室への入室が不要である。

 国外ではβ線核種のルテチウム177(177Lu)を用いたPSMA標的治療が注目されているが、177Luは国内で製造できない、177Lu治療抵抗性の患者が存在するなどの課題がある。それに対し、従来の放射線よりも高エネルギーのα線を放出する核種であるアスタチンは、β線治療抵抗性例でも治療効果が期待でき、加速器を用いれば国内製造も可能である。

 大阪大学では、理化学研究所と協力して研究に必要なアスタチン原料の大量製造と安定供給を実現しており、既にアスタチン化ナトリウムを用いた難治性甲状腺がんに対する国内第Ⅰ相の医師主導治験を開始している。また、国内で患者数が多くアンメットメディカルニーズが強い難治性CRPCに対しては、有効な治療法の開発が求められていた。

正常臓器への副作用を最小限に抑え、腫瘍増加を抑制

 渡部氏らは今回、CRPCに対するPSMAを標的とした新たなα線治療の効果を検討。α線核種のアスタチン(211At)で標識し、18F-PSMA-1007の構造に基づいて設計および合成した複数のPSMAリガンド(211At-PSMA1、211At-PSMA5、211At-PSMA6)をCRPCモデルマウスに静脈内投与し、3時間後と24時間後の体内分布を評価した。処理効果については211At-PSMA1(0.40±0.07MBq、0.002μg、5匹)、211At-PSMA5(0.39±0.03MBq、0.002μg、12匹)、生理食塩水(10匹)を投与して評価。投与後3週間および6週間でリスクのある臓器について病理組織学的評価を実施した。

 その結果、211At-PSMA1および211At-PSMA6と比べて211At-PSMA5は腫瘍組織に高い集積を示し、単回投与で腫瘍の退縮効果が長期間持続することが確認された。一方、投与後のマウスに大きな体重変動はなく、腎臓などのリスク臓器にも大きな副作用は認められなかった(図1)。

図1. 前立腺がんモデルマウスへの単回投与による抗腫瘍効果(図1-左)と担がんモデルマウスにおける体内分布〔図1-右、腫瘍への高集積(赤矢印)〕

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 このことから、211At-PSMA5を用いたα線治療は、正常な臓器への副作用を最小限に抑え、優れた腫瘍増殖抑制効果が維持できると考えられた(図2)。

図2. 211At-PSMA5を用いた標的α線治療のイメージ

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(図1、2とも大阪大学プレスリリースより)

日本発の外来治療として期待

 以上を踏まえ、渡部氏は「転移性mCRPCに対し、高い有効性が期待できるα線治療の開発に成功した」と結論。「アスタチン創薬はまだ黎明期にあるが、日本医療研究開発機構(AMED)から橋渡し研究の支援を受けて、難治性CRPCに対する医薬品としての承認に向けて医師主導治験開始の準備を進める予定だ」と展望している。

(小野寺尊允)