昨年(2021年)、今年と新型コロナウイルス流行下での大学受験を余儀なくされたにもかかわらず、医学部の受験者数は2年連続で増加しており、来年も増加が予想されるなど、医学部入試は厳しさを増している。医系専門予備校メディカルラボ本部教務統括の可児良友氏は、10月27日に東京で開いたプレスセミナーで今年度の大学入学共通テストや国公立大学・私立大学医学部の入試状況を踏まえて、来年度の医学部入試の動向を独自に解析したデータを発表。共通テストや個別試験の難化傾向、面接試験の重視化、志願者数の増加など、より厳しい入試になると予想する一方、合格のチャンスも広がるとの展望を示した。

共通テスト2年目の平均点は大幅に低下、来年度も難化予想

 大学入試センター試験に代わり、今年で2回目の実施となった大学入学共通テスト。平均点は昨年(1回目)に比べて大幅に低い結果となり、特に7科目理系型の平均点は昨年度の581点(得点率64.4%)に対し-57.8点の523点(同58.1%)と大きく低下した()。

図. 共通テスト7科目型の平均点の推移(河合塾共通テストリサーチ集計)

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 可児氏によると、理由として数学(ⅠA、ⅡB)、化学、生物など理系科目の難化が挙げられるという。中でも、数学では日常生活の現象を数学的に考える問いなど、難易度の高い問題が出題された。この傾向から、来年度の共通テストについて同氏は「今年度以上に難化し、平均得点率が50%近くまで低下する可能性がある」と予想する。一方で「平均点の低下により同一得点層の競合者が少なくなり、下位大学のボーダーラインは下がる。そのため、出願方法によっては合格の可能性が高まる」と強調した。

来年度は個別試験も難化し、面接の比重が増す

 来年度の医学部入試では、個別試験についても難化する可能性が高いと予想されている。特に、国公立大学協会では大学入試改革に伴い「高度な記述式問題」を課すとしており、私立大学でも同様の傾向にあるため、マーク式から記述式に変更する大学が出てくると考えられるという。

 また、近年の医学部入試では学力の要素として「主体性」が重要視されており、その評価のために面接・小論文試験の比重が増すと予想されている。可児氏は「配点は変わらない大学が多いものの、面接試験の方法は厳しくなる可能性が高い」との見解を示した。

志願者動向:国公立は反動現象、私立は入試日の重複に注目

 今年度の医学部入試の動向としては、国公立大学では前期・後期日程いずれも志願者数が増加、一方私立大学では2年連続の減少となった。では、来年度の出願状況はどうなるのだろうか。可児氏によると、各大学の志願者動向(増減)に影響する要因としてはの8項目が挙げられるという。

. 志願者動向に影響する要因

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(図、表とも医系専門予備校メディカルラボ提供)

 国公立大学医学部では反動現象や隔年現象が少なくなく、今年度は志願者が減少した旭川医科大学や大阪公立大学などでは来年度の増加が予想される。配点の変更で注目すべきは広島大学で、従来の理科重視型に加え、来年度からは英数重視型を導入するため、理科系対策の遅れがちな現役生が受験しやすくなる。一方、2段階選抜の基準が厳しくなる東京大学や岐阜大学、岡山大学、広島大学などは志願者が減少すると考えられる。名古屋大学は共通テストのボーダーラインを700点以上から600点以上に緩和するため、志願者が増加する可能性が非常に高いという。同氏は、来年度の国公立大学医学部入試について「共通テストが難化した場合、2段階選抜のボーダーラインは下がるだろう」と予想した。

 私立大学医学部では入試日の重複が志願者の増減に影響する。例えば、来年度は単独の入試日となる東邦大学などは志願者が増加するのに対し、入試日が3大学で重複する愛知医科大学などは減少が予想される。また、私立大学では学費も大きく影響し、学費が安くなる関西医科大学や大阪医科薬科大学は志願者の増加が見込まれる。科目や配点を変更する大学としては、数Ⅲの出題がなくなる東海大学、Ⅱ期試験で面接の配点が70点から200点に高くなる昭和大学などが挙げられる。共通テスト利用選抜については、私立大学専願者の共通テスト離れが進んでいることから各大学ともボーダーラインが下がる可能性があるという。

 各大学で予想志願者数の増減はさまざまだが、直近の共通テスト模擬試験(河合塾実施)のデータでは、医学部志望者は昨年度に比べ18%増、私立大学医学部の志望者も一般入試で10%増であり、全体的には来年度の志願者は増加が予想されている。そのため、可児氏は来年度の医学部入試について「志願者は増加し試験問題は難化、面接重視の傾向も強まると予想され、医学部入試はいっそう厳しくなる」と見通す一方、「ボーダーラインが下がり競合者が減るなど、合格のチャンスも広がっている」と受験生を激励した。

(山路唯巴)