「全身が熱い」「体がスライムに覆われているように感じる」といった多汗症症状と衣服やシーツに染み込むほどの強い発汗を訴える患者。これまでに他の医療機関でオキシブチニン、グリコピロニウム、ソリフェナシン、hyoscyamine(ムスカリン受容体拮抗薬)、トピラマート、クロニジンが処方されたが効果がなく、臨床検査上も異常が見られないー。米・Case Western Reserve University School of MedicineのMegan V. Ha氏らは「こうした症例に遭遇したら、Minor法(ヨウ素デンプン反応関連法)による発汗検査に際して2つのことを勧める」とJAAD Case Rep(2022; 29: 164-166)に報告した。
身体醜形障害の要素を持つ多汗症の亜型
症例は過度の発汗を訴える75歳女性。紹介受診した来院時までの数カ月間、先述した多汗症の全ての治療薬を中止していた。発汗を自覚しているにもかかわらず乾燥肌を呈しており、Minor法による発汗検査を後背部や足甲部に実施したが0点(発汗なし)であった。Ha氏は診察に同行した患者友人にも発汗検査を体験してもらい、発汗の感覚と発汗量の乖離に加え、患者が自覚する多汗症の感覚は疑いようがなく否定できるものではないことを説明。多汗症は他のストレスによる症状の顕在化であると考えられると説明し、精神科を紹介した。しかし、通院が負担のため受診に至らず、その後も連絡を試みたが残念ながらフォローアップはできなかったという。
妄想性多汗症は、身体醜形障害の精神病理的要素を持つ多汗症の亜型として、2002年に初めて提唱された。ボツリヌス毒素に対する強迫的な要求を呈することから「Botulinophilia」とも称されるが、これは身体醜形障害のある患者でボツリヌス治療の需要が増加するとの研究に基づく。本症例はBotulinophiliaの特徴を示さなかったが、精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-5)の身体醜形障害に関する幾つかの要素を持つ妄想性障害の基準を満たしていた。現在、本症例に合致する特有の妄想の診断基準は存在しない。
「発汗検査の部位は患者が決める」「陰性なら他の病因と治療法を話し合う」
Ha氏は本症例から得られた示唆について、精神皮膚疾患に焦点を絞り次のように考察した。多汗症はQOLに重大な影響を及ぼす可能性があり、医療者は患者の経験を認めなければならない。医師は問診時に通常聴取する情報以外に、患者の背景となる「物語(narrative)」を引き出すことで、身体的多汗症と妄想的多汗症の区別が付くだけでなく、疾患の感情的影響、患者の社会的支援構造、治療の有用性を探索できる。そして「患者の訴えに耳を傾けない医師に対し、患者が不信感を抱くと、コンプライアンスを損ねてセカンドオピニオンを求め、さらには医療資源の浪費を助長することになる」と注意を喚起し、患者に対し、現時点では多汗症の症状は認められないが、症状を否定しているわけではないと説明することを勧めた。
発汗を認めない多汗症症状を呈する患者には、Minor法による発汗検査や身体の診察を行うべきである。患者の症状について真剣に受け止めている姿勢を示すことで信頼関係が築けるだけでなく、医師が量的多汗症と感覚的な多汗症を区別し、過剰治療などを防ぐのに役立つ。同氏は、Minor法による発汗検査を実施する際は、①適用部位は患者が選択すべきである、②発汗検査が陰性であれば、患者は症状の他の病因と治療法についての話し合いを受け入れるよう口頭で約束しておくーの2点を提案。
その上で、同氏は「妄想性多汗症のような特殊な疾患の精神薬理学的管理については、いまだほとんど知られていない。抗精神病薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、寄生虫妄想、身体的醜形障害、嗅覚関連付け症候群(自己臭恐怖症)と同様に、妄想性多汗症の治療に用いることができる可能性がある。しかしこれらの治療法の有効性を判断するには、より多くの研究での検証が必要である」と述べている。
(編集部)