米国・University of Minnesota Medical SchoolのCarolyn T. Bramante氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した2型糖尿病患者約6,000例を対象に、COVID-19に対する糖尿病治療薬メトホルミンの有効性を検討する後ろ向きコホート研究を実施。その結果、スルホニル尿素(SU)薬に比べ、メトホルミンはCOVID-19の重症化を有意に抑制したとPLoS One(2022; 17: e0271574)に報告した。
全米36施設の糖尿病患者を対象に、呼吸器装着や死亡率で評価
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染対策としてはワクチン接種が最も重要であるが、世界にはまだワクチンが行き届いていない人や、接種を望まない人がいる。そのため、COVID-19の重症化を防ぐため、安全かつ安価で、広く入手できる治療選択肢が必要とされている。
メトホルミンは、SARS-CoV-2の複製に重要とされるmTORを阻害する他、抗炎症および抗血栓作用があり、COVID-19の重症化を抑制する可能性がある。
そこでBramante氏らは、米国立衛生研究所(NIH)のNational COVID Cohort Collaborative(N3C)のデータベースを用いて、2型糖尿病患者におけるメトホルミンの使用とCOVID-19の転帰との関連性をSU薬やDPP-4阻害薬と比較検討する後ろ向きコホート研究を行った。
対象は、全米36施設で2020年1月1日~21年6月1日にCOVID-19と診断された成人の2型糖尿病患者6,626例(平均年齢60.7歳、男性48.7%、平均BMI 34.1、白人56.7%、黒人21.9%、アジア系3.5%、ラテン系16.7%)。2型糖尿病は、過去12カ月の間に少なくとも1つの糖尿病治療薬を服用しており、HbA1c値が6.5%以上または国際疾病分類第10版(ICD-10)コードで糖尿病に分類されているものと定義した。COVID-19診断の90日以内に以下の3剤を単独で使用していた者を組み入れた(メトホルミン5,236例、DPP-4阻害薬459例、SU薬931例)。
禁忌による交絡を減らすため、慢性腎臓病ステージ4、5、または末期の腎不全と診断された患者は除外した。2型糖尿病ではなく、糖尿病予備軍/多嚢胞性卵巣症候群でメトホルミンを使用している患者や、85歳以上の患者も除外した。
評価項目はCOVID-19による入院、人工呼吸器の装着〔挿管または体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とすると定義〕、死亡率(入院中および入院前)とした。背部痛はnegative control outcomeとして評価した。
DPP-4阻害薬とは有意差なく、さらなる研究調査が必要
全体の14.5%が入院し、1.5%が人工呼吸器を装着、1.8%が死亡した。
交絡因子調整後の解析では、DPP-4阻害薬投与群に対しメトホルミン投与群では人工呼吸器装着〔リスク比(RR)0.68、95%CI 0.32〜1.44、P=0.315〕および死亡(同0.82、0.41〜1.64、P=0.581)のリスクが低い傾向にあったが、有意差は認められなかった。
一方、SU薬投与群に対しメトホルミン投与群では人工呼吸器装着(RR 0.53、95%CI 0.28〜0.98、P=0.044)および死亡(同0.56、0.33〜0.97、P=0.037)のリスクが有意に低かった。
背部痛は、調整前後ともにメトホルミンとその他の薬剤との間に差は認められなかった。
以上から、メトホルミンはSU薬と比べてCOVID-19の重症化を有意に抑制したが、DPP-4阻害薬との比較では有意差は認められなかった。
今回の結果について、Bramante氏らは「データベースの規模が大きく、糖尿病単剤治療の群間の転帰を比較できた初めての研究である。メトホルミンによるCOVID-19治療効果やSARS-CoV-2曝露後の予防効果を評価するには、さらなる新規使用者の調査やランダム化比較試験が必要である」と述べている。
(今手麻衣)