名古屋市立大学大学院加齢・環境皮膚科学分野教授の森田明理氏は、ブリストル・マイヤーズ スクイブが11月10日に開催したメディアセミナーに登壇。同社が9月26日に承認を取得し、11月16日に発売した乾癬治療薬でチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬デュークラバシチニブ(商品名ソーティクツ)について、「デュークラバシチニブの投与は既存治療に対する効果不十分例だけでなく、局所療法に効果不十分な難治性の皮疹を有する患者にも適している」との考えを示した。また同薬の臨床試験の結果を踏まえ「ある程度の期間投与を継続すると皮疹が消失する可能性があるなど、非常に期待が持てる薬剤である」と述べた。

血球系の副作用少なく、比較的安全に投与できる可能性

 乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患で、皮膚が炎症を起こし表皮が肥厚して、赤い発疹(紅斑)が出現。銀白色のふけのようなものが付着(鱗屑)して、ポロポロとはがれ落ちる落屑が見られる。皮膚だけでなく体内の炎症も進行して、血管障害、動脈硬化が生じ、心筋梗塞のリスクが上昇するといわれる。国内の推定患者数は約43万人で、皮膚の一部に紅斑や鱗屑を来す尋常性乾癬が85.6%と最多で、全身に膿疱が表れる膿疱性乾癬は2.3%、全身の皮膚が赤くなる乾癬紅皮症は1.5%を占めている。

 乾癬の治療には外用療法、光線(紫外線)療法、内服療法(経口薬)、注射療法(生物学的製剤)の4種類あり、この10年で飛躍的な進歩を遂げている。中でも、進展が著しいのは生物学的製剤である。2010年の腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬インフリキシマブを皮切りに、インターロイキン(IL)-12/23 p40阻害薬、IL-17A阻害薬、IL-17受容体A阻害薬、IL-23p19阻害薬、ペグ化TNFα阻害薬、IL-17A/17F阻害薬といったさまざまな作用メカニズムを有する薬剤が保険適用となり、重症乾癬患者で皮疹が消失する患者も出現し、治療成績が格段に向上している。患者は通院頻度(薬剤の投与間隔)や在宅で自己注射が可能かなどを加味しながら、ライフスタイルに合わせて簡便な全身療法を選べるようになっている。

 経口薬については、これまでビタミンA誘導体、免疫抑制薬しかなかった。しかし、2016年に乾癬の経口薬として25年ぶりにホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害薬アプレミラスト(適応症は尋常性乾癬、関節症性乾癬)が、2020年には経口のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬ウパダシチニブ(同関節症性乾癬)が承認され、今年(2022年)11月にはデュークラバシチニブが登場した。

 デュークラバシチニブは国内初となる1日1回経口投与タイプのTYK2阻害薬。TYK2は、細胞外からの刺激シグナルを細胞内に伝達するリン酸化酵素(キナーゼ)群の1つであるJAKファミリーの分子で、乾癬を含む自己免疫疾患の病態に寄与するIL-23、IL-12、I型インターフェロンなどの炎症性サイトカインの受容体に結合して下流にシグナルを伝達する役割を担う。TYK2に対するアロステリック阻害作用により、これらのシグナル伝達経路を抑える。同薬の効能・効果は「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬および乾癬紅皮症」。薬価は6mg1錠2,770.90円。

 森田氏は、従来の乾癬の治療法の課題について「生物学的製剤の臨床応用により治療成績は大きく改善されたが、薬剤費が高額でより多くの国および乾癬患者に使用可能な新たな薬剤が求められていた」と指摘。デュークラバシチニブ登場の意義について「特異的にTYK2の活性化を阻害するが、JAKファミリーであるJAK1、JAK2、JAK3は阻害しない。そのため、JAKが重要な役割を果たしている血球系細胞に作用せず、血球系の副作用への懸念が少なく、比較的安全に使用できるのが特徴だ」と述べた。

日本人集団でより高い有効性

 中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象にデュークラバシチニブの有効性と安全性を検討した国際共同第Ⅲ相試験POETYK PSO-1および海外第Ⅲ相試験POETYK PSO-2において、主要評価項目である投与16週時点での重症度判定指標であるPASI 75(PASIスコアの75%改善)達成率および、医師による皮疹の重症度の総合評価〔sPGA 0/1:sPGA0は病変消失、sPGA1は病変軽快を表す〕達成率を検討。

 解析の結果、POETYK PSO-1ではPASI 75およびsPGA 0/1の達成率は、プラセボ群とデュークラバシチニブ群でそれぞれ12.7% vs. 58.4%、7.2% vs. 53.6%と、デュークラバシチニブ群で有意差が示された。

 日本人を対象としたサブグループ解析も行われ、投与16週時のPASI 75達成率およびsPGA 0/1達成率で有意差が認められ、デュークラバシチニブ群ではそれぞれ78.1%、75.0%だった(図1

図1. 日本集団を対象とした部分解析の結果:POETYK PSO-1試験

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 森田氏は「PASI 75達成率が78%という高い値は、乾癬治療薬として初期に登場したTNFα阻害薬と同程度の効果。近年実用化された別の作用メカニズムを有する生物学的製剤の有効率には到達しないものの、デュークラバシチニブは経口薬で利便性という点で大きなベネフィットがある」と述べた。

 POETYK PSO-1ではPDE4阻害薬アプレミラストとの有効性などを比較検討した。副次評価項目である投与16週時のPASI 75およびsPGA 0/1達成率のいずれも、デュークラバシチニブ群で有意差が示された。PASI 75およびsPGA 0/1達成率は、投与開始から24週後に最大の効果が認められ52週時まで持続していたことから、同氏は「いったん効果が得られると、長期間にわたり有効性が維持されることが分かった」とコメントした(図2)。

図2. デュークラバシチニブ群のPASI 75、90、100達成率:POETYK PSO-1試験

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(図1、2ともメディアセミナー資料を基に編集部作成)

中止例で3割が効果を持続、生物学的製剤に劣らない有効性

 森田氏はPOETYK PSO-2の解析結果についても解説。主要評価項目である投与16週時のPASI 75およびsPGA 0/1のいずれも、プラセボ群に対しデュークラバシチニブ群で有意に高い達成率が示された(順に9.4% vs. 53.0%、8.6% vs. 49.5%)。同試験では、投与24週時にPASI 75を達成した治療反応例(レスポンダー)でデュークラバシチニブ投与を継続したところ、52週時に80%でPASI 75が維持されており、また24週時に投与を中止した例でも52週時に31%がPASI 75を達成していた。これらの結果を踏まえ、同氏は「デュークラバシチニブ投与を中止しても3割が有効性を維持できており、同薬投与例において薬剤中止の可能性を示唆する結果である」との考えを示した。

 尋常性乾癬、膿疱性乾癬乾癬紅皮症患者を対象とした国内第Ⅲ相非盲検試験POETYK PSO-4(実薬投与群のみ)では、主要評価項目である投与16週時でのPASI 75およびsPGA 0/1達成率はそれぞれ71.6%、75.7%と高かった。PASI 75およびsPGA 0/1達成率はいずれも7割を超えるなど高い効果が示され、中でも中等症から重症の局面型皮疹を有する乾癬患者(PP集団)ではPASI 75達成率は76.2%、sPGA 0/1達成率は82.5%と極めて高かった。また、投与52週まで治療を継続した症例においても、PP集団のPASI 75達成率は86.7%、PASI 90達成率は66.7%、PASI 100達成率は31.7%であり、同氏は「極めて高い有効性が示されており、PASI 75達成率は生物学的製剤に優るとも劣らない有効性を示した」と強調した。

重篤な有害事象の発現率はPDE4阻害薬アプレミラストと同等

 安全性に関しては、POETYK PSO-1およびPOETYK PSO-2の統合解析における投与16週までの重篤な有害事象の発現率は、アプレミラスト群の1.2%に対しデュークラバシチニブ群では1.8%と両群に差は認められず、最長2年の長期投与により発現率が上昇する傾向は見られなかった。一方、デュークラバシチニブ群において5%以上に見られた有害事象は上咽頭炎9.0%(アプレミラスト群8.8%)、上気道感染症5.5%(同4.0%)、頭痛4.5%(同10.7%)、下痢4.4%(同11.8%)、悪心1.7%(同10.0%)だった。森田氏は「頭痛下痢、悪心はアプレミラストの代表的な有害事象であり、明らかに多く見られた」と述べた。

 これらの知見を踏まえ、同氏は「デュークラバシチニブは既存治療の効果不十分例だけでなく、難治性の皮疹を有し局所療法に効果不十分な患者への投与が適している薬剤と考えている。尋常性乾癬、膿疱性乾癬乾癬紅皮症のいずれの乾癬に対しても有効性および安全性が示された」と結論。その上で「詳細な解析を行う必要があるが、デュークラバシチニブの投与を中止しても有効性が維持できる可能性も示された。われわれ皮膚科医は、デュークラバシチニブに対し高い期待を抱くとともに、経口薬という簡便性を生かして、外用薬を初めとする乾癬の他の治療法との併用により、さらに高い効果を実臨床で得ることができると考えている」と述べ、講演を締めくくった。

(小沼紀子)