乳児血管腫は乳児期に見られる良性腫瘍で、頭部、顔面などの皮膚の表面や内部に赤い字ができるが、多くは5〜10歳で自然消退する。男女比は1:3と女児で多く、全体の発生率は2.0〜4.5%と推定されている。β遮断薬治療が有効だが、同薬の種類の違いによる長期的な容貌の改善効果は明らかでない。オランダ・Erasmus MC Sophia Children's HospitalのMireille M. Hermans氏らがプロプラノロールとアテノロールの容貌的改善効果を比較したところ、両薬に違いは見られなかったとActa Derm Venereol2022; 102: adv00788)に報告した。

容貌改善効果を医師、保護者、患児が評価

 乳児血管腫治療は、外見に現れる残存病変が学齢期の子供の心理社会的機能に影響を及ぼす可能性があるため、容貌への長期的な効果も考慮する必要がある。プロプラノロールおよびアテノロールの乳児血管腫への有効性については報告されているが、容貌への長期効果に関する研究は乏しく、治療効果は主に医師の評価によるもので、患児や保護者の視点から報告されたものはない。そこでHermans氏らは、オランダ・Erasmus University Medical Center Rotterdamおよび同国・University Medical Center Utrechtにおける2施設横断研究として、乳児期にプロプラノロールまたはアテノロール治療を受けた乳児血管腫患児の容貌的効果を医師、両親、患児の評価に基づき比較した。

 対象は、2008〜14年に出生しプロプラノロール2mg/kg/日以上またはアテノロール1mg/kg/日以上の経口治療を1歳以下で開始、6カ月以上継続した乳児血管腫患児で、その後レーザ治療や手術、凍結療法、ステロイド治療などを受けたケースは除外した。学齢期(6歳以上)に至った2019年4〜12月に研究への参加を募り、2020年3月までに評価した。

 フォローアップとして皮膚科検診を実施し、β遮断薬の種類を知らされていない皮膚科医、保護者、患児がそれぞれ残存病変の状態を評価。主要評価項目は皮膚科医が評価した乳児血管腫の全体的な容貌的改善度とし、乳児血管腫に対する長期的な容貌的効果を評価する標準的な尺度は存在しないため、治療前と比べ0%(改善なし)から100%の改善(残存病変なし)までを意味する0〜100の範囲のvisual analogue scale(VAS)を用いた。副次評価項目として、残存病変に対する皮膚科医による評価(OSAS、0:良い〜10:悪い)、保護者による評価(PSAS、0:良い〜10:悪い)、患児によるVAS(0:良い〜10:悪い)を調査した。

残存病変は見られるものの、患児も治療効果に肯定的

 解析対象103例の背景は、年齢中央値が7.5歳(範囲6.9〜8.6歳)、女児が84例(81%)で、血管腫の部位は頭頸部が82例(79%)と多くを占めた。β遮断薬治療終了からの期間(中央値)は5.9年(5.7〜6.6年)、プロプロノロール群は35例、アテノロール群は68例で両群に血管腫の形態などに差はなかった。

 87例(86%)に毛細血管拡張(67例、66%)、線維性脂肪組織(44例、44%)、紅斑(37例、36%)など1種類以上の残存病変が見られた。医師によるVAS評価(中央値)はプロプラノロール群が95(範囲90〜99)、アテノロール群が96(90〜99)で差はなく(P=0.89)、交絡因子を調整した解析でもβ遮断薬の種類と有意な関連は認められなかった。また、副次評価項目(OSAS 、PSAS、患児VAS)も両群に差はなく、医師と保護者の評価は高い相関を示した(P≦0.001、Spearmanの順位相関係数ρ=0.71)。患児は残存病変に対して肯定的であった〔VAS中央値:プロプラノロール群2(範囲0〜3)、アテノロール群2(同0〜2)〕。

 以上から、Hermans氏は「1歳以下の乳児血管腫に対する治療において、プロプラノロールとアテノロールで長期の容貌的転帰には差がないことが示された。医師、保護者、患児は総じて残存病変の現状に肯定的で、毛細血管拡張、線維性脂肪組織、紅斑が認められるものの軽微であった」と結論。その上で「今後の研究ではβ遮断薬の種類よりも、長期的な容貌的転帰の指標となりうる乳児血管腫の臨床的特徴に注目する必要がある」と述べている。

編集部